「高配当を得られる」などと甘い言葉で投資を勧誘された若者が、詐欺被害やトラブルに巻き込まれるケースが相次いでいる。借金をし、自己破産に追い込まれる人もいる。警察に摘発された投資詐欺事件の被害者に話を聞くと、若者を狙う詐欺集団の手口が浮かび上がった。(浅見徹)
「今の給料だけでは、君の人生にかかるお金をまかなうことはできないよ。億単位で足りない」。埼玉県の会社員男性(27)は2019年10月、知人の紹介で知り合った外資系保険会社員の男にそう言われた。
男性は当時、社会人2年目で、金融機関で働いていたが、営業ノルマを達成できず職場にもなじめなかった。年収は手取りで約300万円。「投資や副業をやってみたいと考えながら、何も行動できていなかった」と振り返る。
「投資で稼いだ金で高級腕時計を毎月買い替えている」「年収は1000万円を軽く超える」。男の言葉は魅力的だった。海外の投資事情など自分の知らない世界を広げてくれる存在で、「先生」と慕うようになった。
まもなくして「先生」から紹介されたのが、投資コンサルティング会社「フリッチクエスト」(東京)への投資だった。海外で資金を運用するとして、「月利4%で元本も7割保証される」と勧誘された。
社員に会ったのは同年12月。「手元に資金がない」と明かすと、「結婚資金」名目で消費者金融約10社から金を借りるよう指南された。言われた通り計1000万円を借りて、フリッチ社の本社に持参した。手数料100万円を差し引いた900万円を投資した。
翌月から毎月、フリッチ社が会員をもてなすために開く「おもてなし会」を訪れ、「配当」として月36万円を現金で受け取った。手元に少しだけお金を残し、残りを消費者金融の返済に回した。「全額を返済した後は、不労所得になる」と期待した。
だが、投資から約2年たった昨年1月に突然、メールで配当停止を告げられた。「先生」に連絡して状況を尋ねたが、「大丈夫だよ」などと、のらりくらりとかわされた。消費者金融への借金は約600万円残っており、月十数万円を返済しながらの生活が苦しくて、男性は今年2月に自己破産を決めた。
男性は学生時代の友人ら4人に「先生」を紹介しており、全員が同様に借金をしてフリッチ社に投資していた。うち2人が同様に返済に行き詰まり、自己破産を余儀なくされた。
今年2月、警視庁がフリッチ社社長の森野広太被告(38)(詐欺罪などで起訴)と同社幹部らを詐欺容疑で逮捕した。同社は16年以降、約3300人から約200億円を集めたとされ、投資した人の約6割が20~30歳代だったという。
男性は取材に「いま思えば、そんな甘い話があるわけないとわかるが、当時は『先生』の言葉を信じていた。バカなことをしてしまった」と悔やんだ。
勧誘事件3倍に…暗号資産、トラブル顕著
野村総合研究所の「生活者1万人アンケート」によると、投資をしている人の割合は2018年に17・6%だったが、21年には21・1%に増えた。特に若者の増加幅が大きく、25~29歳は6・5%から17・9%に、30歳代も13・5%から19・1%に上昇した。
警察庁のまとめでも、うそのもうけ話などで投資を募る「利殖勧誘事件」を巡って昨年1年間に警察に相談を寄せた10~20歳代は410人に上り、17年(124人)の3倍以上に増加した。最近は暗号資産関連のトラブルが目立ち、大阪府警が5月に摘発した暗号資産を巡るマルチ商法事件でも、被害者の多くが大学生などの若者だった。
若者文化に詳しいトレンド評論家の牛窪恵さんは「SNSを通じ、投資に成功した人の情報に触れる機会が増え、自分も投資しなければと焦りを抱える人が多い」と分析し、「投資をするなら『周りがやっているから』ではなく、自分の意思で慎重に決めることが大切だ」と話している。