動画投稿サイトで著名人らを繰り返し脅迫した疑いなどで逮捕状が出ていた、ガーシー元参議院議員(本名・東谷義和容疑者)が、滞在先のUAEから6月4日に帰国。暴力行為等処罰法違反などの疑いで警視庁に逮捕された。1年近く密着してきた元朝日新聞記者(元ドバイ支局長)が、ガーシーの本質に迫った「文藝春秋 電子版」の記事を再公開する。
◆◆◆
ある種の無垢な精神の持ち主――。国会欠席問題で除名処分が検討されている参院議員、ガーシーこと東谷義和=敬称略=をそんな風に形容すると、「そんなばかな」という反応が返ってくるだろうか。「詐欺まがいのことをしたペテン師だぞ」「取材者はガーシーにすり寄っているのか」という声も聞こえてきそうだ。しかし、この表現は彼に1年近く密着してきた私が抱くウソ偽らざる感想だ。
昨年2月17日、動画配信サービスのYouTubeで、「東谷義和のガーシーCH【芸能界の裏側】」 は突如として始まった。芸能人に対し27年間、異性を引き合わせる「アテンダー」をやってきたとし、自らの詐欺疑惑が発覚すると、急に連絡を絶つなどして「手のひら返しをした」芸能人の友人らに対し、「私怨」だと公言しながら過去のスキャンダルを暴露し始めた。速射砲のような関西弁の語り口、「きっちりやったる」「全部めくったる」といった特徴的な言い回しも話題となり、チャンネル開始50日たらずでチャンネル登録者数は100万人を突破する。
そして昨年4月、朝日新聞ドバイ支局長だった私は初めて東谷に接触することになった。その1ヶ月ほど前に東谷がドバイにいるという情報が私のもとに寄せられ、取材対象として強い関心を抱くようになっていた。詐欺疑惑も抱えているため事件取材の目的もあったが、何よりも「文春砲ならぬガーシー砲」「一人週刊誌状態」などとの論評も出始めており、一つのメディア現象を起こしている人物として取材する価値が大きいと考えた。あくまでも物議を醸す渦中の人として、是々非々で取り上げる。その視座さえブレなければ記事として成立するだろう――。そんな思いで東谷のツイッターのダイレクトメールを通じて取材を申し込んだのが全ての始まりだった。
当初は「(詐欺疑惑の)被害者への弁済が終わるまではインタビューは受けられない」と拒まれたが、挨拶という名目で会えることになった。ドバイでオープンしたばかりの最高級の和食レストランが場所に指定され、そこで東谷と初めて対面したのだ。
黒で統一された高級感漂う店に、東谷はベージュの野球帽に白いTシャツ、膝までのハーフパンツというカジュアルな格好で現れた。
会うなり、満面の笑顔で、白い歯をのぞかせている。ご満悦なのは当然だった。この日、昨年4月7日にチャンネル登録者数がちょうど100万人を突破し、そして多額の広告収益が入ることも確実になったからだ。
「収益化に必要なピンコードが(YouTubeを運営する)グーグル社から届いていなかったので不安だったのですが、ようやく届きました。正直、もう全て返済できる見通しが立ったんです。ただ、最初の収益が入ってくるのは5月下旬ぐらいになりそうなんですけどね」。開口一番、東谷はそう説明した。
飲み物はアイスグリーンティーを注文した。意外にも酒が飲めない体質だという。しかし、酒は飲まなくても暴露配信と同じように本当によくしゃべる。私が一つ質問したことに10倍返すかのように半ば問わず語りにしゃべり続ける。交友のあった綾野剛や城田優、新田真剣佑などの直近の暴露対象になった具体的な芸能人の名に次々に言及しながら、近く暴露を予定しているスキャンダルまで開陳していく。職業柄、つい私も食い入るように耳を傾けてしまい、東谷から「普通にガーシーCHファンですか」と笑われてしまうほどだった。
「毎回、覚悟決めてやってるんで」
配信開始から50日足らずで、あっという間に億越えは確実とみられる収益を確保した東谷にこう尋ねてみた。
「今はこんなに話題にもなって、(YouTube配信が)楽しいんじゃないですか」
東谷は途端に表情を変え、首を振りながら即座に言い切った。
「それはないですよ。楽しいなんてのは、まったくないです。本当に毎回、覚悟決めてやってるんで」
この瞬間から東谷を追う長い日々が始まったように思う。了解を得て密着取材を始めると、東谷は次々に私の想定を超えた行動に出る。動画の広告収益で返すと思っていた詐欺疑惑の4000万円の弁済金は日本全国に美容クリニックを展開する医師麻生泰氏に先に貸し付けてもらい、またたくまに弁済を済ませる。そして、その示談が全て済んだ段階で長らく極秘にしていたドバイ滞在を明らかにすると、あろうことか今度は海外にいながらにして立花孝志氏が党首を務めるNHK党(当時)から参院選に出馬し、当選してしまう。
私は東谷のインタビュー原稿をめぐる朝日新聞の所属部署の対応に疑念を抱き、会社を退職する決断をすることになったが、退職後もドバイに引き続き住み、取材を継続させてきた。このほど取材の集大成として出版するのが「 悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味 」(3月17日発売、講談社+α新書)だ。ガーシーCHの配信現場、参院選出馬、誕生日会、モーニングルーティンなど、ドバイでの東谷に密着し、その行動を追った。そして、東谷の周囲に成人向け動画投稿サイト創業者で日本警察からマークされている者、暗号資産ビジネスでグレーな噂を抱えている者、学生闘争で挫折感を抱いた元赤軍派、交通事故で相手を植物状態にさせた若手経営者ら、日本社会に何らかのルサンチマン(遺恨)や情念を抱える者たちが数多く集まっていた。そして、その彼らが東谷のガーシーCHに対して陰に陽にさまざまな形で手を貸している様子を描いた。
詳細は本書を手に取っていただきたいが、この原稿では、なぜ私が東谷を「無垢」だと感じたのかが本題である。その理由をいくつか東谷のエピソードを交えてお伝えしたい。
「王族になる」宣言
「アラブの王族になろうと思っているんですよ」
東谷からそんな突拍子もないアイデアを最初に聞かされたのは、昨年7月の参院選のころだった。場所は欧米からの富裕層が多く住むドバイの人気エリア・マリーナ地区に借りていた彼のアパートメントの一室だったと記憶している。私はいつものガーシーCHの配信前の雑談で彼からそんな話を聞かされた。誰もが冗談としか思えないような話で、私も当初はそう受け止めたのだが、その後の行動を見ていくと東谷は結構真剣なようなのだ。
その理由を経済学者成田悠輔とのオンライン対談で東谷本人がわかりやすく語っているので引用したい。
「王族になりたいんですよ。めちゃめちゃハードルが高いとは思っているんですけどね、(可能性は)ゼロじゃないと思っている。(アラブの王族と)養子縁組をさせてもらうとか、王女さんと結婚するとか、いろんな形で入る形はあると思う。もし王族になれたら、大手をふって日本に帰れる。さすがにアラブのロイヤルファミリーの人は逮捕できないでしょう。漫画みたいなこと言っていると思うやろ。でも、実際に王族を紹介してくれる人がたくさん出てきたんですよ」(2022年8月19日 NewsPicks配信)
一言で言えば、日本に安全に帰国するために王族の身分が欲しいというわけだ。東谷は日本で知人女性約40人から韓国アイドルグループのBTSに会わせると言って旅行代金などとして総額約4000万円を集めた。しかし、これを実現させずに返金もしなかったため詐欺疑惑が持たれていた。この件については前述したように東谷を支援する医師の麻生泰氏が弁済資金を貸し付けたことで被害者全員と示談が成立した。しかし、詐欺罪は必ずしも告訴を必要としない非親告罪のため警察が引き続き捜査している可能性はあったし、東谷に暴露された著名人が名誉毀損や脅迫などの疑いで被害届を出し、そちらで立件される可能性もあった。東谷はUAEで何らかの安全保障を得たいと考えていたところ、「王族になる」という案に行き着いたのだ。
もちろん現実的には無理がある。UAEの王族はまず前提としてイスラム教徒である必要がある。そして血縁、特に父親が誰かということを非常に重視するため、父親が王族でないと王族になれない世界である。日本人女性がときどきアラブの王族に嫁入りする事例はあるが、厳密には王族の身分を与えられるわけではない。しかし東谷はそういうことも承知の上で、王族コミュニティーに入り込み、何らかの特例的な身分や地位を得たいと考えているのだ。
王族に接触するのも普通は困難だ。アラブ諸国では「王族と繋がりがある」とまことしやかに騙り、近づいてくる人物も少なくない。しかし、東谷は周辺の人脈を生かし、実際にUAE王族と懇意にしている日本人らを介して、多くの王族との面会にすでに成功している。
「王族になりますよ。口にしないと、実現するもんも実現しないから」
言い始めてから半年以上が過ぎたが、今も東谷はこんなふうに言い続けている。
◆
伊藤喜之氏による「《アラブの王族になりますよ》元朝日新聞・密着記者が見たガーシーの『無垢さ』」の全文は、「 文藝春秋 電子版 」に掲載されています。
(伊藤 喜之/文藝春秋 電子版オリジナル)