コロナ禍が落ち着き、ライブやイベントが再開される中、SNSなどでチケットの転売を持ちかけられ、金銭をだまし取られる被害が目立ち始めた。国民生活センターへの相談は、コロナ禍が始まった2020年度に激減したが、再び増えており、同センターは注意を呼びかけている。(中山真緒)
国民生活センターに寄せられたインターネットでのコンサートチケット転売のトラブル相談件数は、20年春からのコロナ禍で大きく減少していた。
感染対策でイベントそのものが減ったためで、20年度は322件と19年度の10分の1以下だった。しかし、翌21年度は増加に転じ、22年度は1687件になった。新型コロナウイルスが5類に移行し、今後も増加が予想される。
懸念材料が、コロナ禍前に相談が急増傾向にあったことだ。17年度までは毎年1000件未満だったが、18年度は2100件、19年度は4692件だった。
同センターが指摘するのが「推し活」の影響だ。アーティストらを応援しようと、熱心にライブなどに通うファンらの活動を指し、聖心女子大の小城英子教授(社会心理学)は「お金をかけるほど『推し』のアーティストとつながれるとの心理や、ファン同士の競争心から高額でも入手を試みがちだ」とする。
推し活は若い世代に多いといい、消費者庁の21年度の調査では「意識的にお金をかけていること」との質問に、コンサートなど「参加型のイベント」と答えた人は全体で約6%だったが、10歳代後半と20歳代は、いずれも16%に上る。国民生活センターへの相談者でも20歳代以下が4割を占め、同センターは「公式サイトから買うことが重要で、SNSの書き込みには注意してほしい」としている。
「ようやくコンサートに行けると思い、飛びついてしまった」。大津市内に住む20歳代の女子大学生は昨年、ジャニーズの人気アイドルグループ「King&Prince」のコンサートチケットの購入を巡り、1万6000円をだまし取られたという。
最初はファンクラブサイトで購入しようとしたが、落選。諦められず、ツイッターで転売してくれる相手を探した。提示価格が定価(1枚8000円)の10倍程度と手が届かないものが多い中、2週間探して「2枚を定価で譲る」との書き込みをようやく見つけた。
すぐにメッセージを送信すると、「キャッシュレス決済で先に送金してほしい」と返事があった。直後に計1万6000円を送金すると、相手は音信不通になったという。
女子大学生は、主催者側がチケット転売を禁止し、発覚するとファンクラブを強制退会させられる恐れもあるため、「警察に相談しづらい」と被害届は出していないが、最近は事件化されるケースも目立つ。
香川県警は昨年9月、アイドルグループ「Snow Man(スノーマン)」のコンサートチケットなどを譲ると偽り、金をだまし取ったとして、大阪府内の女(25)を詐欺容疑で逮捕した。女は有罪判決を受けた。
事業者側も対策進む
チケットを巡っては営利目的の高額転売が問題となる中、音楽業界などから規制を求める声が高まり、2019年にはチケット不正転売禁止法が施行された。
同法は主催者の同意なしに、高値で継続的に転売することや売買目的の入手を禁じ、罰則が適用される。
今年4月には、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の観戦チケットを高値で売った男が、神奈川県警に同法違反容疑で逮捕された。
事業者側でも対策が進み、ライブなどに行けなくなった人が、チケットを再販できるサイトも設立され、不正な売買の防止に取り組む。
チケット転売問題に詳しい福井健策弁護士は「SNSが詐欺や高額転売の温床になっており、利用者は注意が必要だ」とした上で、「事業者側もチケットの電子化など転売ができない対策が求められる」と指摘する。