「ジャニーさんに食われるぞ」13歳の自分には忠告の意味すら分からなかった アイドルへの道は暗転、うつに悩み自殺願望も 「ジャニーズ性加害問題」(2)

二本樹顕理さん(39)が目指したのは、歌って踊れるエンターテイナーだった。ジャニーズJr.として活動した当時のアイドル雑誌には、あどけなさの残る少年の姿が刻まれている。だが自ら望んだアイドルの道は、事務所の前社長、故ジャニー喜多川氏の性加害によって暗転した。13歳だった。(共同通信=森原龍介) 【※末尾に音声解説、インタビュー動画のURLがあります】
東京都港区のジャニーズ事務所
▽部屋の明かりが消え、誰かがベッドに… アイドルに憧れたきっかけは、小学生の頃、母親に連れて行ってもらったマイケル・ジャクソンのコンサート。「自分もエンターテインメントの世界で生きてみたいと思ったんです」。日本で言えばジャニーズ事務所だと思った。オーディションを受けたのは中学1年の夏。テレビ局のレッスン場で十数人の少年たちと踊った。

劇団に所属し、ダンスの腕には覚えがあった。振付師の指示通りに踊ってみせると、しばらくして横浜アリーナに呼び出され、そのままステージに。「それで合格したっていうのが分かった」。ジャニーズJr.としてのキャリアが始まった。 各局のアイドル番組に出演するようになった。レッスンは夜まで続き、日々忙しかったが「まさに自分がやりたいことだった」。レッスン場でも収録現場でも常に見かけたのが、熱心に少年たちを指導するジャニーズ事務所の前社長、ジャニー喜多川氏だ。 妙なうわさを聞いていた。 「先輩が忠告するんです。(ジュニアが寝泊まりする)合宿所に行ったら、ジャニーさんに〝食われるぞ〟って」 だが、ピンとはこなかった。「食われるって言っても具体的な定義もよく分からなかった」。性体験はおろか、性の知識もまだ持ち合わせていなかったためだ。 入所からしばらくたった頃、その日のスケジュールを終えた二本樹さんは喜多川氏から声をかけられた。「今夜泊まっていきなよ」 仲の良い同期も一緒だったせいか「警戒心はなかった」。喜多川氏の運転で東京都内の高級ホテルへ。部屋にはほかのジュニアの姿もあった。喜多川氏が買った弁当を食べ、ゲームで遊ぶうちに夜が更けていった。「ユーたち、寝なよ」。部屋の明かりが消えた。 誰かがベッドに入ってくる気配で目が覚めた。最初は肩をもまれ、太ももを触られ、突然キスをされた。喜多川氏だった。その手は下着に伸び、性器にも…。自分の身に何が起きたのか。「かなり混乱してました」。事が終わっても、喜多川氏はそばにいた。 「ひたすら寝たふりをしていました。でも頭は朝までずっと起きている状態」 翌朝、喜多川氏は学校に向かう少年たちを駅まで送っていった。だが、周囲の大人には何があったのか言えなかった。「親にも恥ずかしくて言えなかった」
インタビューに応じる二本樹顕理さん
▽抵抗できず、支配され「大人はグルだ」 その後も被害は10回ほど続いた。場所はホテルや「合宿所」と呼ばれたマンションの一室。そのたびに1万円かそれ以上のお金を握らされた。二本樹さんは当時の心境についてぐっと考え込み、振り絞るように語った。 「お金で買われたようで、自分の存在価値を否定されたと思った。自分より力を持つ相手に抵抗できず支配されているような感覚です。自分が自分でなくなってしまうような…」 レッスン場での喜多川氏の振る舞いにも疑問を感じた。周囲に少年たちをはべらせ、ボディータッチも露骨。「当時の私は、全員知っていて黙認しているんじゃないかと感じていた。大人はグルだと思っていた」 ジュニアの仲間同士では「前の晩に何をされたとか、そういう会話が常態化していた」。ただ、それを語り合う際は冗談めかしていたという。「男なので強がって、心の痛みをごまかすために話していたのだと思います」 入所して1年ほどたった頃、ドラマの撮影で地方に長期滞在した。スタッフや共演者とも仲良くなった時、心境の変化があった。 「そこには性被害に遭っていない他の芸能プロダクションの子たちもいた。なんで自分だけ…って思ううちに、戻りたくなくなったんです」 ロケが終わると、退所を切り出した。喜多川氏から慰留されたが、意志は変わらなかった。1年半ほどのアイドル生活が終わった。「ホッとした一方ですごい喪失感もあった」
立憲民主党のヒアリングに応じた元ジャニーズJr.の二本樹顕理さん=5月31日午後、国会
▽うつ、自殺願望…苦しめる性被害の記憶 その後は、父親の転勤に伴って渡米し、音楽を本格的に学んだ。ミュージシャンとしても活躍した。 ジャニーズにいたことを周囲に話すことはなかったが、性被害の記憶はしつこく二本樹さんを苦しめた。自己肯定感がなく、自虐的な行動を取ってしまう。「慢性的なうつに悩み、自殺願望もずっとあった」。被害に遭った当時の喜多川氏と同じ世代の男性が近くにいると、恐怖に駆られる。メンタルが落ち着いたのは30歳を過ぎてからだったという。 自分が望んだアイドル活動だったが「その後の人生にまで及んだ影響を考えると、負の体験でしかなかった」。あの時、オーディションさえ受けなければ…。「もっと健康的な少年として育つことができたんじゃないかって、今も思います」
立憲民主党の安住国対委員長に児童虐待防止法改正を求める署名を渡す元ジャニーズJr.の(左4人目から)橋田康さん、カウアン・オカモトさん、二本樹顕理さん=6月5日、国会
▽子どもが安心して夢を追求できる世に 喜多川氏による性加害疑惑を週刊文春が報じたのは1999年。二本樹さんは、その際のジャニーズ事務所の行動に衝撃を受けた。事務所は、版元の文芸春秋などを訴えたのだ。「個人で声を上げても攻撃される」と思い、自ら告発しようとは考えてもみなかった。 「(性加害の)体験にもふたをして誰にも言うことはないだろうと思っていた。何か行動を起こしても、なかったことにされてしまう。城壁に小石を投げるようなもので、声を上げても聞かれることはないんじゃないかって…」 2019年、喜多川氏が死去すると「これで少年たちを食い物にするような人物がこの世からいなくなったんだ」とホッとした。 今年3月、英BBCが喜多川氏の性加害を告発する被害証言を放送。4月には元ジャニーズJr.で後輩に当たるカウアン・オカモトさん(27)が実名で記者会見したのを見て、自分も立ち上がった。「若い彼が一人でがんばっている。援護したいと思ったんです」 これまで顧みられてこなかった彼らの声がようやく今、日本社会を揺さぶっている。「子どもたちが安心して、純粋に夢を追求できる世の中にしたい」
※ジャニーズ性加害問題については、記者が音声でも解説しています。以下のリンクから共同通信Podcast「きくリポ」をお聞きください。

【インタビュー動画はこちらから↓】

【↓ジャニーズ性加害問題(1)】 鍵がかかっているはずのドアから、ジャニー喜多川氏が入ってきた…13歳で性被害「忘れようとした」過去を告白し、乗り越えるまで
https://www.47news.jp/9475535.html