熊本県山都町の石造りアーチ式水路橋「通潤橋(つうじゅんきょう)」が23日、国の文化審議会で国宝に指定するよう答申された。国宝に指定されれば熊本県内では青井阿蘇神社(人吉市)に続き2件目。2016年の熊本地震や18年の大雨での被災を乗り越え、全国初の国宝橋が誕生する。【山口桂子】
阿蘇カルデラを形成する外輪山の南側、九州の真ん中に位置する「九州のへそ」と呼ばれる山都町。その谷間に架かる国内最大級の石造りのアーチ橋が、文化審議会で国宝に値する「近世石橋の傑作」と評価された。この日、橋に隣接する道の駅には「祝 国宝答申通潤橋」と記された横断幕が掲げられ、静かな山里はお祝いムードに包まれた。
橋の中央上部からの豪快な放水が有名な町を代表する観光スポットだが、本来の役割は周辺の田畑を潤す農業かんがい設備の一部だ。江戸時代、水不足に悩んでいた住民を救うため、今の町長にあたる惣庄屋(そうじょうや)、布田保之助(ふたやすのすけ)が1854(嘉永7)年、堅固で精緻な石積み技法を持った肥後の名匠らと建設した。
町教育委員会などによると、橋の上部にサイホンの原理を応用した3本の石の通水管が敷設され、放水は管に詰まった土砂を外に出すための独特の機能という。現在は放水による橋の劣化を防ぐため、放水日が年間上限120回と定められている。
地元の白糸台地の米農家らでつくる「通潤地区土地改良区」によると、橋ができた当初から農家の中で「配水係」を決め、約170年間、人の手で橋を守り、その恩恵を受け継いできた。現在は町内の後藤英治さん(66)と三浦尚登さん(72)の2人が放水や水門の調整を担い、周辺155世帯の営農を支え、約100ヘクタールの水田を潤している。
橋は地震や豪雨で漏水するなどして石垣の一部が崩落したものの、その度に修復しては復活を遂げてきた。今回の吉報に、先祖が建設に携わったという後藤さんは「橋が多くの農家や米を食べた人たちの命をつないでくれた。よくぞ先人が造ってくれた」と感慨深げ。三浦さんも「地元農家の高齢化が進んでいるが、国宝ともなれば、これからも何とか皆で守っていかないけんです」と気持ち新たに橋を見つめた。
梅田穣(ゆたか)・山都町長のコメント
地域の先人たちが地形的な制約に屈することなく、叡智(えいち)を結集して生み出され、今日でも地域の農業を支えている。国宝指定の答申をいただいたことは大変栄誉なこと。日本の宝として守り、受け継いでいく。
放水日程はHP確認を
放水は例年4~5月と7~11月の週末などに実施。直近の開始は7月15日から。橋上からの見学は放水日の午前10時~午後3時。当日に道の駅通潤橋の物産館で申し込みが必要。観覧料は一般500円、小・中学生200円。放水日程は町のホームページで確認できる。