きもかわいいだけじゃない 裸で出っ歯のネズミに医学界がチュー目

体毛がほとんどなく、しわしわの体に、口の上下から細く伸びた4本の出っ歯。そんな「きもかわいい(気持ち悪いけどかわいい)」ネズミが、熊本市動植物園で30日から初めて飼育展示される。その名は「ハダカデバネズミ」。インパクトのある名前や見た目の裏には、驚きの能力や生態があった。
ケニアやエチオピアなど東アフリカのサバンナに生息し、地面に掘った穴の中に集団ですむ。体長約10センチ、体重30~80グラム。唇の上下から飛び出ている歯が特徴だ。目はほとんど見えない。ネズミの仲間は通常1~4年で死ぬのに対し、寿命が10倍の約30年と長く、がんにかかりにくいことで近年、医学研究者らの注目を集めている。
不思議なのは外見だけではない。哺乳類では珍しく、アリやハチのように「階級」があり、雌の女王、繁殖が役目の雄、巣を掘ったり餌を探したりする「働きネズミ」がいるなど、群れで役割をきっちりと分担する高度な社会性を持つ。
こうした謎多きネズミの解明に、熊本大生命科学研究部の三浦恭子教授(長寿生物学)が取り組んでいる。2012年ごろから理化学研究所などの個体約30匹を譲り受け、現在は1200~1300匹を飼育。長生きする半面、ストレスには弱く、気温30度、湿度55~60%という環境が必要だ。
三浦教授は16年にハダカデバネズミの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り出すことに成功。ヒトやマウスの場合、そのままiPS細胞を体内に移植すると腫瘍ができるが、ハダカデバネズミにはできず、同時にがんになりにくい遺伝子の働きも分かったという。
三浦教授は「遺伝子の仕組みを明らかにすることで、人間の老化、がんの予防に応用できる可能性がある。子供たちの科学的な好奇心をかき立てる教育的価値も高い」と話す。
今回、三浦教授の研究室はハダカデバネズミ11匹のほか、一回り大きい「ダマラランドデバネズミ」4匹も熊本市動植物園に寄贈した。国内の動物園でハダカデバネズミを飼育するのは、上野動物園(東京)、埼玉県こども動物自然公園、札幌市円山動物園など5園。ダマラランドデバネズミの飼育展示は初めてという。【森健太郎】