滋賀の高齢者、免許返納急増 5月の園児死傷事故後

全国で高齢ドライバーによる事故が相次ぐ中、県内では65歳以上の高齢者の運転免許証の自主返納が増加している。大津市の交差点で車が保育園児らの列に突っ込んで16人が死傷した事故が起きた5月以降、返納者数は各月で前年比100人増と高い水準で推移し、8月末時点で前年同期比1052人増の4218人が免許を返納した。一方、高齢化や過疎化が進む山間地域などでは移動手段がなくなることへの不安から、依然として返納が進まないのが現状だ。(清水更沙)
県内で出張相談
「右の注意が少し気になりますね。右折の時は注意が必要です」
「やや動作や反応が遅いです。運転に不安はありませんか」
今月24日、東近江市八日市緑町のスーパーの駐車場に置かれた交通安全教育車「近江ふれあい号」の車内では、70代を中心とした大勢の高齢者がアクセルやブレーキの正確な操作などの確認を行い、警察官からアドバイスを受けていた。
県警は今年5月から、高齢ドライバーによる事故が多発していることを受け、高齢者の免許返納を促そうと、これまでに交通安全教育車で各地を回る出張相談を17カ所で行っている。
車内には運転操作を検査するシミュレーターや記憶力や判断力をチェックするための機器が搭載されており、検査が終わると自身の運転能力がグラフや表で分析されたペーパーが出てくる仕組みとなっている。
この日、友人と出張相談に参加した同市の無職男性(88)は「日常生活にはつえが欠かせないうえ、最近は耳も聞こえずらい。運転に自信があったが、現実を突きつけられた感じだ」と困惑した様子だった。
返納者数5.7倍
県警によると、昨年1年間の65歳以上の運転免許証の自主返納者数は4579人となり、平成23年(802人)の約5.7倍に増加し、過去最多を更新した。
6月に甲賀市内のホームセンターで行われた出張相談で反応速度が遅いと判断された磯部久子さん(75)は約2カ月後に免許を返納。「車を運転しなくなると生活は不便だが、運転を続けて取り返しのつかないことになる前に免許を返納できてよかった」と話す。返納後は娘らに車を出してもらうなど家族が協力してくれているという。
県警交通企画課は「高齢ドライバーによる事故が相次ぐ中、『いつ自分が加害者になるか分からない』という危機意識の表れではないか」と分析している。
県警は免許返納後の生活をサポートしようと独自の取り組みを進めている。移動手段の確保のために路線バスやタクシーの割引券を交付するなど公共交通機関の利用サービスの充実を図っているほか、免許更新時に75歳以上の人に義務づけらた認知機能検査で「認知症のおそれがある」(第1分類)と判定された高齢者に対しては、最寄りの警察署で返納後の悩みを相談できる態勢も整えている。
高齢者からは不安の声
それでも、県内高齢者の自主返納者数は全体の数%にとどまっている。返納に二の足を踏む理由となっているのが、生活の足を手放すことへの不安。「田舎ではバスやタクシーなどの数が少なく、経済的に考えても毎日利用するわけにはいかない」との声が上がる。
東近江市市辺町で暮らす中村和男さん(89)は毎日のように軽トラックを運転している。高齢を理由に家族から免許返納を促されているが、「(車を運転する)息子たちがいつも近くにいるとはかぎらない。公共交通機関が十分に発展していないため、運転しなくなると生活ができなくなる」とこぼす。一方、「年齢を重ねるにつれ、体の衰えを感じている。自身の運転技術を過信し続けるのは危険だ」とも打ち明ける。
県警交通企画課の古谷英生高齢者交通安全推進室長は「一律に免許を返納させるのが難しいのは事実。免許を返納する前に万全の安全対策を警察だけでなく、官民が連携し、高齢ドライバーによる事故を防止する必要がある」としている。