静岡県熱海市の大規模土石流は3日で発生から2年を迎えた。違法な盛り土の一部が崩落し、28人が犠牲になった教訓を踏まえ、政府は5月、造成の許可制を柱とする盛り土規制法を施行し、未然防止に力を入れる。とはいえ、不適切な盛り土は各地に点在しており、造成業者らが行政指導に応じないなど土砂撤去や是正は容易ではなく、継続的な監視が欠かせない。
熱海市の土石流で崩落起点に残る盛り土について、行政代執行による強制的な撤去作業を進めていた静岡県。6月末には撤去が完了した。代執行に踏み切ったのは、土砂の撤去を求めた県の措置命令に盛り土造成に関与した疑いのある不動産管理会社が応じず、崩落の危険性のある土砂を放置できないと判断したからだ。
問題は約11億円に上る撤去費用を回収できるかどうか。県は今後、不動産管理会社に請求する構えで、川勝平太知事も記者会見で「妥協なしに手続きを進める」と言い切るが、回収は困難を極めそうだ。
静岡県島田市の採石場跡地に積まれた盛り土についても、県は昨秋に行政代執行に着手した。土砂の撤去など応急対策だけでも約2億円。造成業者は倒産しており、県の担当者は「費用回収は難しいだろう。業者の財産を調査し、回収できるところから回収するしかない」と漏らす。
一時的に税金を投入する行政代執行で土砂は撤去され、周辺住民の安全が確保される。一方、撤去費用の回収は難しく、請求先の業者との間で訴訟に発展するリスクを抱えるだけに、自治体にとって最終手段の代執行に至るまでに盛り土を是正したいのが本音だ。
千葉県は昨年4月、政府による総点検で確認した329カ所の不適切な盛り土を発表した。うち5カ所は「土砂崩落で周辺住民などへの影響が懸念される」状態だった。その一つの君津市内の盛り土では再三の是正指導などに業者が応じず、県は大雨に備えてブルーシートや土嚢(どのう)の設置といった応急対策でしのぐ。
一方、盛り土規制法は都道府県などが盛り土崩落で民家に被害が出る危険性のある場所を令和7年5月までに規制区域に指定し、区域内の造成を許可制とした。違反した法人には最高3億円の罰金を科すなど強化した。
これまで宅地や農地などで盛り土の適用法令が異なっていたが、用途に関係なく一律で規制するのが特徴だ。ただ、規制法の所管は国土交通省、農林水産省、林野庁にまたがる。森林法など関係法令で部署が分かれていた自治体も「横ぐしで検討を進めなければいけない」(千葉県宅地対策調査室)と縦割り行政を排除する発想が必要になる。
静岡県は盛り土行政を新設の対策課に一本化し、今年度から衛星を使った違法な盛り土の監視も進める。対策課は「違法な盛り土の造成を防止する法整備に加え、基礎自治体や警察などと連携した監視も行われるようになり、抑止効果は格段に高まった」としている。
不適切な盛り土対応が進む一方、肝心の熱海土石流災害からの復興は道半ばだ。
崩落起点に残る盛り土の撤去完了に伴い、熱海市は立ち入り禁止の警戒区域を9月に解除する予定だ。復興に向けて一歩前進するが、住宅再建計画を巡り市側の方針が迷走。土石流で自宅を失い、今も避難生活が続く被災者は不信感を募らせている。
市は昨年、被災地の住宅再建計画として、被災前に自宅のあった警戒区域内に戻ることを希望する被災者の土地を市が買い取り、整備後に分譲する方針を打ち出した。しかし、一部の被災者から住宅分譲価格の上昇を懸念する声が上がり、市は今年5月、被災者自身が住宅を再建整備し、費用の9割を市が補助する方式に見直した。
ところが、急転直下の方針変更に被災者や市議会から説明不足との不満が相次いだ。市は住宅再建にかかる補助費を盛り込んだ補正予算案の取り下げに追い込まれた。意思疎通を欠くとの批判を受けた斉藤栄市長は補助制度について被災者に丁寧に説明し、理解を得た上で補正予算案を改めて提出する考えだが、被災者の理解が得られるのか。なお曲折が予想される。(青山博美、岡田浩明)