ロシアによる侵攻が続くウクライナの現状について、平成17(2005)年から交流を続ける日本ウクライナ文化交流協会(大阪府八尾市)の小野元裕会長(53)ら4人が6月上旬にウクライナを訪れ、帰国後に大阪市内で報告会を開いた。メンバーが見た戦禍のウクライナとは-。「抵抗しなければ虐殺されるだけ」「勝利がなければ戦争は終わらない」。ウクライナ住民から聞き取った生々しい証言が相次いだ。
ひとごとではない
同協会は、寄せられた寄付金などをもとにウクライナ西部で住民のための避難所を建設中。今回、小野会長ら4人は建設の進捗(しんちょく)状況の視察を主な目的として渡航した。現地ガイドの協力を得ながら、約10日間の滞在期間中に首都のキーウ(キエフ)など各地を訪れたという。
「ロシアのミサイルが飛んできて、何の罪もない方々が…。一瞬にして住まいを奪われ、火災が発生し、命からがら外へ逃げてもロシアのスナイパーが待ち構えているわけですから…」
帰国後の6月18日、大阪市内で開かれた同協会の報告会。キーウ近郊の都市、イルピンで、破壊された住居ビルを見て衝撃を受けたというメンバーの八尾市の30代主婦は、時折言葉をつまらせながら初めて訪れたウクライナの状況を語った。
女性がウクライナに関心を持ったのは、小野会長の講演を聞き「なぜウクライナは侵攻を受けるのか。もっと同国を知りたい」と思うようになったからだ。
キーウ中心部にある広場では、ロシア軍から奪った戦車などが展示されていた。女性は「市民に見せることで士気をあげている」と感じた。市民に「停戦しては?」と話を向けると、返ってきた言葉は「停戦は望んでいない」。理由をたずねると「いったんロシアを追い出しても、また攻めてくる。抵抗しなければ領土を奪われ、虐殺されるだけだ。望むのはロシアの崩壊」と語ったという。
ウクライナ訪問中には、南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所でダムが決壊する被害があった。現在は、ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発をめぐり、破壊される可能性があるとウクライナ側が指摘するなど緊張が高まっている。女性は「チェルノブイリ原発事故の何倍もの被害が出る。平和を脅かす行為は許されない」と訴えた。
今回のウクライナ訪問で日本もひとごとではないと感じたという。「日本もロシアに不法占拠された北方領土の返還は到底望めない。私たちができることはウクライナを知り、学ぶことだ」と話す。
危険の中で生きる
メンバーの奈良県生駒市の70代男性は「首都キーウがどうなっているのか見たい」という思いでウクライナに渡った。
のどかな山並みが広がる郊外でビデオカメラをまわすと、通りすがりの女性に怒られた。「のどかな風景の中でも危険を感じながら生きている。ウクライナの現実をひしひしと感じた」
ロシア軍の侵攻を防ぐために破壊された橋の近くにはロシアのプーチン大統領を赤鬼のように描いた落書きも見た。男性は「ウクライナの人の気持ちではないかなと思った」と語った。
報告会には、日本に住むウクライナ人もかけつけ、早期の戦争終結を願った。
「天はあなたの唯一の味方」。富山県の大学で教鞭(きょうべん)をとるパブリー・ボグダンさんは、母国の人たちを思い、自作の詩を朗読した。
キーウ出身の国際政治学者、グレンコ・アンドリーさん(35)は、募った寄付金で日本の中古車をウクライナへ届ける独自の支援策を紹介。「ロシア軍を排除しないと、この戦争は終わらない。停戦という意見もあるが、勝利につながる支援をする」と訴えた。
関心持ち続けて
日本ウクライナ文化交流協会は、ロシア語を学んだ小野会長が「ウクライナにロシアのルーツがある」と関心を持ち、設立。同国と定期的な文化交流を続けてきた。ロシア侵攻後のウクライナを訪れるのは昨年9月に続く2回目だ。今回、初めてキーウに入った。
小野会長の妻で歌手のOnoAkiさんは「キーウに入ると、道路標識が消されている。ロシア軍が攻めてくるのを防ぐためだ」と報告。「現地の人から『旧ソ連軍におじが殺害された』と聞かされ泣いてしまった」といい、今回の戦争で市民らが虐殺されたというブチャも訪れ「恐怖を感じた」と振り返った。
協会は「八尾市の小学校などとネット経由で交流してほしい」(小野会長)との思いでウクライナ西部の小学校も訪れ、パソコン2台を寄贈。同市の小学生からの絵の贈り物や止血バンドなど日本の医療品も渡した。
3月段階の世界銀行などの推計ではウクライナの復興費用は4110億ドル(約58兆円)に達する。同国の国内総生産(GDP)の2倍を超える規模という。
小野会長は、ウクライナにとっては「2014年のクリミア侵攻から戦いは続いている」と強調。日本人に求められるのは「ウクライナ人が困り、欲しいものを支援することだ。たくさん寄付も必要。ウクライナに関心を持ち続けてほしいし、交流協会は支援を続けていく」と話した。(西川博明)