―[経済オンチの治し方]― 私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。 ◆日本は貧しい国なのか、それとも豊かな国なのか? 貧困を示す指標には、「生きていくうえで最低限必要な食料さえ確保できない」状態にある絶対的貧困と、「その国・地域の水準で見て大多数よりも貧しい」状態の相対的貧困とがあります。 相対的貧困は等価可処分所得(年間手取り収入を世帯人員で調整したもの)の中央値の半分以下の所得(これを「貧困線」といいます)の状態のことです。世帯の生活水準の指標としては、世帯員が増えるほど一人あたりの生活費が割安になるため、一人あたりの可処分所得よりも、このような等価可処分所得で見るほうが適切です。 厚生労働省『国民生活基礎調査の概況』(’19年版)によると、’18年の相対的貧困率は15.4%で、先進国の中では5番目に高い水準です。これは読者が予想されていた貧困率よりも高いのではないでしょうか。ちなみに、この相対的貧困世帯の等価可処分所得は127万円(月額では10.6万円)以下です。 ’18年における、17歳以下の子供全体に占める相対的貧困率(子供貧困率といいます)は13.5%で、約7人に一人は貧困線以下の状態に置かれていますが、これは先進国では10番目に高い水準です。なかでも17歳以下の子供がいる日本の一人親世帯(母子家庭が多い)の相対的貧困率はOECD統計で48.5%に達し、先進国では最も高くなっています。 一方、66歳以上の世帯の相対的貧困率は20%で、子供のいる一人親世帯よりもかなり低くなっています。なお、福祉大国北欧4国(スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマーク)の相対的貧困率は6.4~9.3%の範囲にとどまっています。 相対的貧困は、絶対的貧困ほどの厳しい貧困ではありませんが、大人であれば、他の人たちに食事や映画鑑賞などに誘われても参加できないとか、子供であれば、部活ができない、毎日同じ洋服しか着られないといった状況に置かれる、というように、「独りぼっちで、人並みの社会的な生活」を送ることができない点が問題です。 このような状態に置かれた子供は、「自分はダメな人間だ」と自己否定感を抱くようになり、自己や他人を傷つける非行や犯罪に繋がるケースがあるといわれます。