《令和3年に発生した京王線無差別刺傷事件の裁判員裁判で、服部恭太被告(26)への被告人質問が続いている。弁護人が質問する内容は、被告が事件を起こすに至ったいきさつに移っている》
《高校卒業後に就いた介護の仕事を辞めた後、短期のアルバイトなどを転々としたという被告。インターネットカフェでのアルバイトでは盗撮が発覚し、罰金30万円の刑事処分を受けたという。平成30年4月には、最後の勤務先となる通信企業にアルバイトで入り、その後、契約社員に登用された。一方で、中学時代から交際していた女性との関係も続いていた》
弁護人「女性との関係に進展はありましたか?」
被告「結婚を前提に同棲(どうせい)しました」
弁護人「同棲を始めた時期は?」
被告「令和2年の3月だったと思います」
弁護人「結婚の話はどの程度進んでいましたか?」
被告「両家の顔合わせや結婚指輪の種類、入籍の時期など、おおむね決まっていました」
弁護人「その後、どうなりましたか?」
被告「彼女から婚約破棄を切り出され、解消しました」
弁護人「言われたのはいつですか?」
被告「(令和2年)11月8日でした」
弁護人「その日は何の日でしたか?」
被告「(自分の)誕生日でした」
弁護人「婚約破棄の理由は何でしたか?」
被告「主だった理由は、『金銭的に余裕のある人がいい』と言われました」
弁護人「当時の貯金は?」
被告「30万円くらいでした」
弁護人「借金はありましたか?」
被告「ありませんでした」
弁護人「どんな気持ちになりましたか?」
被告「彼女だけが信用できる大きな存在だったので、ショックが大きかったです」
《婚約を破棄された約半年後、被告は、別れた女性の「変化」に気付き、心を大きく揺さぶられることになる》
弁護人「そのころ、他に変わったことはありましたか?」
被告「(別れた女性の)LINEのプロフィールに変化がありました」
弁護人「どんな変化ですか?」
被告「名字が変わっていて、『結婚しました』と書いてありました」
弁護人「どう思いましたか?」
被告「自分自身にとって、(交際していた)9年間は長い、大きな期間でした。別れてからたった半年で結婚と聞いて、自分の存在価値がわからなくなり、生きていく意味がない、死にたいと思いました」
弁護人「それでどうしましたか?」
被告「自殺も頭をよぎりましたが、過去2回、死ぬことができなかったので、自分は自殺では死ねないと思い、行動には移していません」
《女性の結婚を知ったのと同じころ、被告の人生は仕事の面でも変化が訪れていた。通信企業で顧客対応に従事していた被告は、対応中の発言が原因でトラブルになり、3年6月15日に勤務先から正式に部署異動を指示された。被告は同21日に退職の意向を伝え、その翌日にはインターネットで、犯行に使用したサバイバルナイフを注文した》
弁護人「ナイフは何をするために注文しましたか?」
被告「この時点で、死刑になりたいということが頭にありました。そのために人を殺さないといけないので、犯行を計画しました」
弁護人「そのころ考えていた内容はどんなものですか?」
被告「場所は東京の渋谷で、10月31日のハロウィンの日に、人混みで無差別にナイフで切りつけて殺害するというものでした」
《被告は3年7月30日、当時住んでいた福岡を出発し、8月30日まで神戸に滞在。東京は当時、7~8月に開かれていた東京五輪の影響で警備が厳しく、ホテル代も高かったため、東京での長期滞在は避けたという》
弁護人「その頃から日記を書いていますが、どういう目的で書いたのですか?」
被告「事件に対するモチベーションを保つためです」
弁護人「どういうことですか?」
被告「殺人が悪いことだとわかっているので、(殺意を)抱き続けるのが難しく、残る形で記録して見返すことで、殺人に興味を持たなければいけない方向に(自分を)持っていこうとしました」
弁護人「どんなことを書いていましたか?」
被告「殺人を犯すことが楽しいと思えるようなことを書いていたと思います」
《神戸滞在中の8月6日には、走行中の小田急線車内で男が乗客を刃物で刺す事件が発生。この事件は、被告の犯行計画に大きな影響を与えたという》
弁護人「小田急線の事件から、どんな影響を受けましたか?」
被告「犯行場所を電車の中にすることと、ガソリンをまいて火をつけるということで影響を受けました」
《米人気コミック「バットマン」の悪役「ジョーカー」の仮装をして犯行に及んだ被告は神戸に滞在中、ジョーカーに関する画像をスクリーンショットで保存していた。弁護人の質問は、これまで法廷では詳しくは明らかにされてこなかった「被告がジョーカーに扮した理由」に及んだ》
弁護人「以前からジョーカーに関心はありましたか?」
被告「関心はなかったけれど、作品は知っていました」
弁護人「スクリーンショットを保存したのはどうしてですか?」
被告「殺人を犯さないといけないという中で、イメージや目標になるキャラクターがいればいいと思いました。映画を見返して、ジョーカーを目標にすればいいと思いました」
《その後、被告は名古屋に移り、9月30日から八王子のホテルに宿泊。ライターオイル、殺虫スプレー、たばこを購入した。手に入れたライターオイルは水のペットボトル(2リットル1本、550ミリリットル4本)や柔軟剤の容器に移し替え、たばこにもライターオイルを染み込ませた》
弁護人「ライターオイルを移し替えたのはどうしてですか?」
被告「缶に入っている状態だと、液体が出てきにくいので、より効率よくまくためです」
弁護人「たばこにライターオイルを染み込ませたのはなぜですか?」
被告「火種をより広範囲に広げるためです」
弁護人「ライターオイルを染み込ませたのはいつですか?」
被告「犯行の前日です」
弁護人「もう一度、犯行の計画を教えてください」
被告「調布駅から電車に乗り込み、ナイフと殺虫スプレーで乗客を先頭車両に追い込み、2リットルのペットボトルのオイルをまいて、さらに遠くの乗客に向けて550ミリリットルのペットボトルを投げてオイルをまき、ライターを投げて火をつけます。火が付かなければ、たばこを投げて火をつけ、火がついたらスプレー缶を投げ入れて爆発を起こし、殺傷能力を高めようと考えていました。最後に柔軟剤の容器に入れたオイルをまいて、さらに炎の範囲を広げるという犯行内容です」
《犯行に使うナイフやオイルの準備を進める一方、被告は犯行に使わないものはホテルの部屋に残していった。残したものの中には、穴の開いたスーツケースも含まれていた》
弁護人「滞在していたホテルの部屋に残されていたものはどうするつもりでしたか?」
被告「逮捕されるつもりだったので、処分されてもいいと思っていました」
弁護人「ホテルにあったスーツケースには3カ所穴が開いていましたが、何故ですか?」
被告「犯行に使ったナイフで刺したからです」
弁護人「いつですか?」
被告「犯行当日です」
弁護人「なぜ刺したのですか?」
服部被告「ナイフの攻撃力を確かめるためです」
《ここで弁護人からの質問は終了。昼の休廷をはさみ、午後は検察官からの質問が予定されている》