安倍晋三元首相の一周忌を前にした頃から、新聞紙上ではあの人物の名をまたよく見るようになった。
『実質「森派」? 決め手欠きまだ決まらない「ポスト安倍」』(スポニチアネックス5月17日)
出ました森喜朗!
《確実に言えるのは、森氏の存在感が増していることで、政府関係者は「森氏がにらみを利かせる“森派”の状態がしばらく続きそうだ」と指摘。》(同前)
そんな森氏が提唱しているのが「5人衆」である。
《「5人衆」とは、元派閥会長の森喜朗元首相の提案で、政府・自民内で要職を務める5人の有力議員による集団指導体制のことだ。》(朝日新聞デジタル7月6日)
5人のメンバーは、松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、萩生田光一政調会長、世耕弘成参院幹事長、高木毅国会対策委員長。
裏を返せば安倍派のトップがなかなか決まらないということでもある。どんぐりの背比べというか、誰が会長となっても現時点では派閥内から不満が出てきそうなので元派閥会長の森喜朗氏の発言が重宝されているのだ。
「5人」が好きな森喜朗氏
そういえば森喜朗氏が首相になった時も「5人組」という言葉があった。2000年4月に小渕恵三首相が緊急入院した際、「5人組」と呼ばれた政権幹部の協議により森首相が誕生。しかし「密室政治」とかなりの批判を浴びた。それでもやっぱり5人が好きな森喜朗氏なのである。
今回の5人衆という体制はまだ確定ではなく、さまざまな案もあるようだ。たとえば「会長と総裁候補の分離」案。
《会長レースで有力視されているのは、萩生田、西村両氏だが、会長を萩生田氏、総裁(首相)候補を西村氏とする「会・総分離」を支持する議員も目立つ。「ポスト岸田」への意欲を隠さない西村氏と、幹事長を目指すと公言している萩生田氏双方の顔が立ち、亀裂が生じるリスクを減らせるためだ。》(読売新聞6月28日)
他にもこんな案があるという。
《そうした中で、高木氏を会長に推す案も浮上している。「高木会長であれば、他の人間が共同代表的に支える形にできる」(同派関係者)という構想だ。》(同前)
高木氏の「パンツ事件」とは?
野心が無さそうな高木氏を会長にすることで丸く収まる? しかし高木氏といえば気になることがある。週刊文春(7月20日号)にはこんなコメントが。
「能力も意欲もなく、誰からも『首相候補』と目されない最年長の高木氏を一時的に祭り上げる案もあるが、最後にはパンツ事件が引っかかり、暗礁に乗り上げる」(政治部記者)
パンツ事件とは何か? 実は高木氏は「これまで何度も下着ドロボー疑惑が浮上している」のだ(同前)。復興大臣となった2015年に、週刊文春や週刊新潮が報じている。これは単なる噂話やゴシップではない。週刊誌報道を受けて地元の「日刊県民福井」は1面で『高木氏週刊誌報道 窃盗疑惑は「事実」』と書いた(2016年1月13日)。当時の福井県警の捜査関係者が証言した。
だから高木氏の呼称がふつうに「パンツ」となっていたのである。ちなみに週刊文春の記事によると高木氏は「萩生田だけはダメだ」と反発しているという。こんな対立があるのか。東スポには「萩生田、反パンツ同盟結成へ」と盛り上げてもらいたい。
さらに5人衆案にはこの人がみついた。
『安倍派新体制 「5人衆」案、下村氏反対 』(毎日新聞デジタル7月11日)
安倍派の下村博文氏が「5人衆」案に反対したのである。下村氏からすれば会長代理の俺を抜かしてありえないという怒りだろう。下村氏と言えば以前から自民党総裁選には意欲満々。しかし周囲はまったく盛り上がらない。
安倍氏亡き後は『安倍派継承、息巻く下村氏』(信濃毎日新聞デジタル2022年7月24日)という記事もあった。その性急な動きが反発を招いていると書かれている。
下村博文氏といえば、2021年の共同通信(9月5日)による、次の首相に「誰がふさわしいか」調査での支持率は0.6%だった。最近流行のアルコール度数0.5%の「微アルコール」と似ていたので、私は「微アル博文」と呼ぶようになった。
もっと酔わせてほしいが、下村博文氏と言えば、昨年の安倍氏銃撃事件以降「旧統一教会の名称変更当時の文科相」だったことが注目された。教団は1997年に名称変更を相談したが却下され、2015年になって申請したら認められたからだ。同じ安倍派の萩生田氏も旧統一教会との関係が注目されている。
保守派はなぜ沈黙しているのか?
自民党と統一教会でいえばこんなことがあった。
『韓鶴子総裁「岸田を呼びつけて教育を受けさせなさい」内部音声を独自入手「日本の政治は滅びるしかないわよね」旧統一教会』(TBSテレビ7月3日)
《旧統一教会、「世界平和統一家庭連合」の解散命令請求に向け、国が「質問権」を行使する中、教団の韓鶴子総裁が日本の幹部らおよそ1200人を前に、「岸田総理や日本の政治家を韓国に呼びつけて、教育を受けさせなさい」と発言していたことがわかりました。》
この件に関して、日刊スポーツのコラム「政界地獄耳」は『侮辱にもダンマリの保守派…教会との癒着はすべて安倍氏だけのことにしたいのか?』と指摘(7月11日付)。
《不思議なのは保守派が心酔する旧統一教会の理屈は保守派のそれと全く合致せず、日本を侮辱し戦犯国と呼ぶなど聞き捨てならない発言ではないのかということだ。自民党内からも保守派からも総裁の発言に怒りどころか、苦言すら言わないことが保守派の漂流なのではないか。それとも教会との癒着はすべて安倍だけのことにしたいのだろうか。それを保守と呼べという方が無理ではないか。》
本当に不思議である。こんなに「反日」を標榜する旧統一教会を前にしてなぜ保守派や安倍派は沈黙しているのか。下村氏も萩生田氏も、ついでに高木氏も韓鶴子総裁に反撃したらどうだろうか。
(プチ鹿島)