かつて「政治家の下半身問題」は不問だったが…木原誠二官房副長官(53)の「不倫報道」に考えさせられたこと

最近あらためて思うのですが、雑誌の「雑」は「雑多」の魅力であると思う。新聞ではやらない下世話視点が満載だ。人間に焦点を当てているからだろう。人間にはいくつもの顔や表情があり、欲望も抱えている。週刊誌は猟犬よろしくそんな部分を獲ってくる。政治ネタだろうが芸能人の不倫だろうが目の前にあれば獲るのが仕事。
最近だと週刊文春は広末涼子さんの密会現場を取り上げていた。そのうち広末のラブレターまで公開したからさすがにやりすぎではないか? と批判も出た。私も同感だった。でも週刊誌は目の前に獲物があれば獲ってくるからこうなるよなぁ……とも。つまり読み手が問われるのか。そう思った私はあのラブレターの部分は読まなかった。褒めてやりたい。
「政治家の公と私」について考えた
そんな週刊文春は広末と同時期にこんな「獲物」もくわえてきていた。
『“岸田最側近”木原誠二官房副長官 シンママ愛人に与えた特権生活《ティスニーテート撮》』(週刊文春 6月22日号)
読み手にとってはほんとに多彩なメニューだ。私は木原記事のおかげで「政治家の公と私」についても考えさせられた。
というのも昭和の頃は、政治家の下半身ネタをマスコミは問わなかった記憶があるからだ。むしろ田中角栄などは武勇伝のように言われていた。潮目が変わったのは平成元年のサンデー毎日による当時の宇野宗佑首相の「スクープ」だったと思う。
『宇野新首相の「醜聞」スクープ 「月三〇万円」で買われたOLの告発』(サンデー毎日1989年6月18日号)という見出しで、当時40歳の女性Aさんが芸者をしていた85年、宇野氏と金銭を介した性的関係を結んでいたと暴露したのだ。
プライベート報道の線引き
首相になったばかりの宇野氏にこのスキャンダルが直撃。参院選にも負けてわずか2カ月の短命政権に終わった。政治家のプライベート報道は是か非か? 当時のサンデー毎日編集長だった鳥越俊太郎氏はこう話している。
「政治家が女性と不倫し、肉体関係を持ったとしてもそれだけなら報道しない。宇野氏は彼女をホテルニューオータニに電話で呼び出し、国会を抜け出して会っていた。性交渉の対価としてカネを払っていた。これは『買春行為』であり、許されないと判断しました」
ちなみに、この27年後に鳥越俊太郎氏が東京都知事選に出馬した際、週刊文春は鳥越氏の女性問題をめぐる記事を掲載した。鳥越氏は名誉毀損と公職選挙法違反の罪で文春を刑事告訴したが、不起訴になった。
こうして振り返ると政治家とプライベート問題は、こういう人物でいいのかという問いが王道だ。もちろん情報戦としてのタレこみもあるだろう。しかし「私」の部分が「公」に影響を与えているとしたらどうなのか? という大事な問いもある。
今回の木原報道から考えたいのもその点だ。木原氏は愛人宅から首相官邸に出勤し、そのあと官邸の中枢を担っているという。私生活では2拠点で公的には岸田首相の右腕としてフル回転。こんな過密スケジュールで「私」の部分が「公」に影響を与えていないか? 国民への政策はおろそかになっていないか? と不安になってしまうのである。
木原氏の「妻」に関する報道
しかし驚くのはこの後だった。週刊文春が今度は木原官房副長官の「妻」に関してスクープを放ったのだ。
木原氏の妻であるX子さんが5年前に、ある殺人事件の重要参考人として警視庁から事情聴取され、実家なども家宅捜索を受けていたことを報じたのである。妻の前夫「怪死」事件である。
《2006年に亡くなったのは、安田種雄さん(享年28)。ナイフを頭上から喉元に刺したとみられ、死因は失血死だった。
当時は自殺の可能性が高い不審死として処理されたが、12年後の2018年、大塚署の女性刑事がナイフの血の付き方に違和感を覚えたことをきっかけに、再捜査が始まる。真相究明への期待に胸を膨らませた遺族だったが、1年足らずで突如、捜査態勢が縮小》(週刊文春スクープ速報7月19日)
なぜ捜査は幕を閉じたのか
安田種雄さんの当時の妻が、現在の木原官房副長官の妻X子さんなのだ。安田さんとX子さんが結婚していたとき、X子さんは「Y氏」と出会い、夫婦関係は瓦解。週刊文春によれば安田さんが亡くなったあと「Y氏」は警察の事情聴取を受け、「あのとき、X子から『殺しちゃった』と電話があったんだ」とも言っていたという。かなり気になる点である。さらに木原氏が妻のことを「俺がいなくなったらすぐ連行される」と言っていたという音声も公開された(週刊文春7月13日号)。
記事のポイントとしては、一体なぜ捜査は幕を閉じたのかという点。政権与党の有力議員の家族という「捜査のハードル」があるのか?
すると木原氏は弁護士を通じて司法記者クラブに「御通知(至急)」と題した文書を送付し、〈マスコミ史上稀にみる深刻な人権侵害〉と批判し、即刻記事を削除するよう求めている。刑事告訴を検討しているという。
今後の注目点は?
今後の注目点は、この問題はまだテレビや新聞など大手メディアは報じていないという点。警察が事件性を認められないと言っており「疑惑」のままだと報道できないという理由だろうが、「刑事告訴したら、それをきっかけに各社に報道されてしまう」という岸田派幹部の声もある(週刊文春7月27日号)。木原氏はどう判断するのか。
動きもある。安田種雄さんの遺族が20日、霞が関の司法記者クラブで会見を開き、17日付で所轄の大塚警察署長に再捜査を希望する上申書を提出。タブロイド紙はこの模様を報じている。
《種雄さんの父親(70)は嗚咽まじりに「テレビ局や新聞社の皆さまには、この事件に関心を持って広く報じていただきたい」と呼び掛けたが、その願いは大手メディアに届くのか》(日刊ゲンダイ7月21日付)
この記事はネットでも全文公開されている。反響が大きいからだろう。ネットやタブロイド紙などからじわじわときて世論を動かすという現象は今までもあった。今回はどうなるのか。
「おや……」と思った部分
さて今回の文春記事の中でおや……と思ったのが自民党の森山裕選挙対策委員長の発言だ。政治部記者を集めた懇談会で次のように語ったという(7月20日号)。
「印象が悪い。木原は早く代えたほうがいい」
「警察権の行使について『政治家に配慮した』なんて言われたら、大変なことになるよ」
森山氏は選対委員長としての働きが岸田首相に認められていて、新聞によっては次の幹事長候補とすら書かれている人物だ。永田町も文春報道をじーっと見ている様子がわかる。みんな「雑誌」に夢中なのである。
(プチ鹿島)