マイナンバーの誤登録問題を巡り、国は主な原因を自治体などでの「人的ミス」と強調するが、背景には自治体ごとに異なる事情もある。国が11月末までに行うよう指示した総点検では、「職員OB、OGも駆り出さないと」といった声が上がるなど、重い負担がのしかかる自治体で危機感や懸念が増幅。識者は「国は制度への不安に応える努力をすべきだ」と指摘している。
「ミスの反省を踏まえ、組織的にチェックをかける態勢を整えたい」
先月、知的障害者向けの療育手帳の情報を、別人のマイナンバーにひも付けたケースが2336件あった宮崎県の担当者はこう話す。職員が昨年10月、手帳の情報を国のマイナンバー関連システムにコピーした際、大半が作業ミスで本人と別人の情報を重複して登録。国から通知された総点検で発覚した。
県によると、療育手帳の管理システムを導入していないため自動入力ができず、職員1人が手作業で入力を実施。入力後は他の職員が確認する態勢をとっていなかった。
こうした現状に対し、国は自治体に7月上旬、マイナンバーカード取得者向けサイト「マイナポータル」で閲覧可能な29項目の情報について、ひも付けた際の情報管理などに関する質問を通知。その回答をもとに総点検の調査範囲などを決め、今秋の完了を目指す。
大阪府は7月末までに、府が調査主体の項目と市町村分を取りまとめる項目について回答。ひも付け方法は年金や児童手当など項目ごとに異なり、担当者は「今後の総点検ではかなりの手間がかかるのでは」とみる。
このため府は7月下旬、臨時の幹部会議を開催した。総点検は個人情報を扱うため外部委託ができず、会議では大規模な点検になった場合は人員確保が困難になると指摘。「職員OBやOGを駆り出さなければ乗り切れないのでは」との意見が出るほど、危機感を募らせている。
吉村洋文知事はその場で府内の点検状況のスケジュール管理や市町村への技術支援とともに、国に人員・財政両面で支援を要望するよう指示した。
一方、大阪市では、税や年金など11項目のひも付け方法を7月末までに国に報告した。同市の担当者は「総点検には膨大な照合作業が発生するだろう」と警戒。府内のある自治体担当者も「国には早く調査の指示をしてほしい」と恨み節も聞こえてくる。
武蔵大の庄司昌彦教授(情報社会学)は「行政の効率化や信頼性、安全性の向上が期待できるマイナンバー制度とマイナンバーカードを止めてはいけない」とした上で「国は自治体や国民の制度への不安に応える努力をすべきだ」と指摘。総点検については「一時的なものにならないよう、課題を吸い上げ改善する仕組みを確立する必要がある」と訴えている。(山本考志、北野裕子、石橋明日佳)