中国でスパイ活動を行ったとして実刑判決を受けて服役し、昨年10月に帰国した元日中青年交流協会理事長、鈴木英司氏(66)が8日、都内の日本記者クラブで記者会見した。中国で7月に施行された「改正反スパイ法」で拘束者が増えるとの懸念を示し、「中国で起訴されれば無罪になることはない。日本政府は拘束された自国民を起訴前に救う方法を真剣に考えるべきだ」と訴えた。
鈴木氏は2016年まで200回以上訪中し、日中交流を推進したが、同年7月、帰国前に北京の空港で拘束された。逮捕前に隔離部屋で尋問される「居住監視」が約7カ月間続き、19年に懲役6年の実刑判決を受け昨年まで服役した。
鈴木氏は「改正反スパイ法は国家安全に固執する習近平国家主席の考えが反映されている」と指摘。改正法では当局の権限も強化されており、「裁判まで全てが秘密に行われる。全ては(スパイを摘発する)国家安全部(省)のさじ加減で決まってしまう」と批判した。
鈴木氏は帰国後、日本の外務省や公安調査庁から連絡がないことにも不満を漏らし、「本来なら(拘束時の状況などを)聞きにくるべきだ。(邦人保護への)やる気が感じられない。国会議員も積極的に関連の質問をし、政府を緊張させてほしい」と訴えた。
3月に反スパイ法違反容疑で拘束されたアステラス製薬の日本人男性社員について、日本大使館が対面で面会できたのが3カ月以上後だった点にも触れ、「あり得ないことで悲観的な状況だ。岸田文雄首相が何度も解放を要求しなければ変わらない」と述べた。
今月には欧米諸国の大使館員向けに自身の体験を話す機会があったと明かし、「米国や英国、カナダなどは(中国の人権問題に)興味を持っている。将来的には国連人権理事会に問題提起することも考えたい」と語った。
改正反スパイ法はスパイ行為の定義を拡大し、国家機関や重要インフラへのサイバー攻撃もスパイ行為とした。全ての国民や組織にスパイ行為の通報を義務化し、当局にスパイ行為の疑いがある人間の持ち物検査を行う権限も与えた。(桑村朋)