動物の臓器を人に移植する「異種移植」の国内実施を見据え、日本医療研究開発機構(AMED)の研究班が、遺伝子改変した動物の臓器を移植する際の安全性を確保するため、指針案作成に乗り出したことが17日、分かった。海外でブタの腎臓や心臓を移植する手術が試みられる中、国内で適切な体制整備につなげるのが狙い。臓器を入れ替える時代が到来間近となってきた。
異種移植は、免疫拒絶反応を抑えるために遺伝子改変した動物の臓器を使う。脳死や心停止による臓器提供不足を解消すると期待される一方、未知の感染症拡大のリスクが課題となっている。国内では1型糖尿病患者にブタの膵島(すいとう)細胞を移植する研究が進んでいる。厚生労働省研究班は16年、膵島細胞移植を想定し、実施に伴うリスクなどをまとめた指針を改定。だが、動物の臓器丸ごとの移植を想定した指針はなかった。
今回、研究班では指定病原体のないブタの生産・飼育、臓器の摘出、医療現場への搬送、移植手術までの管理体制の標準化を目指す。具体的には、無菌環境でのブタの品質管理や臓器調達施設で飼育可能な日数、移植手術前後に実施すべき検査を検討。対象となり得る患者の整理や、異種移植に適した免疫抑制療法についても評価する。
現在、米国ではブタの腎臓を移植された脳死状態の男性が1か月以上、生きていることが大きなニュースになっている。ニューヨーク大学ランゴン・ヘルス病院は16日、脳死状態で生命維持装置をつけた男性に遺伝子操作されたブタの腎臓を移植し、32日たっても正常に機能していると発表した。手術は7月14日に行われた。9月中旬までモニタリングするという。
同病院は「遺伝子編集されたブタの腎臓が人間の体内で機能している最長期間であり、移植用臓器の代替的で持続可能な供給の出現に向けた最新の一歩である」としている。
執刀したロバート・モンゴメリー医師は「米国食品医薬品局によってすでに安全であると判断されたブタを使用することと、これまでの異種移植研究で発見されたことを組み合わせることで、臨床試験の段階に近づくことができると考えています。これが何千人もの命を救う可能性があることは承知していますが、最大限の安全と配慮を確保して前進したいと考えています」とコメントしている。
米国では、昨年、遺伝子改変したブタの心臓を男性に移植する手術が行われたが、男性は2か月後に亡くなったという。それでも、ある専門家は「研究が本格化したここ30年の歴史で画期的な出来事だ」と評価。今回の腎臓移植の経過が注目されている。
まるでSFの世界だが、現実はさらに進んでいる。3Dプリンターを用いてiPS細胞を臓器にする研究が大詰めを迎えている。14年にiPS細胞を使って網膜を作り、目の病気の患者に移植を行い、今年3月の時点でも腫瘍化せずに視力を維持していることが報告されたのだ。目指すのはiPS細胞で臓器を創出し、臓器を再生したり、臓器移植に使ったりすることだ。サイエンスライターは「悪い臓器は取り換えればいいという時代が来るかもしれない」と話している。