対立しがちな「経営」と「ものづくり」、マザーハウス代表の山口氏はどう解決してきたのか

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」――。そんなミッションから生まれたマザーハウスは、バングラデシュ、ネパール、インド、インドネシア、スリランカの工場から、ハイセンスで高品質なバッグやジュエリー、アパレルを世界に届けている。

若くして起業し、さまざまな困難を乗り越えながらマザーハウスを成長させてきた同社代表の山口絵理子氏には、一つのビジネス上の信念がある。それが、さまざまな対立を乗り越え、よりよい解決策を導き出すためのフレームワーク、「サードウェイ」だ。

「途上国と先進国」「手仕事と大量生産」「デザインと経営」「グローバルとローカル」「個人と組織」――。これまでさまざまな二項対立に日々、直面してきた同氏が編み出した解決法、「サードウェイ」とはどのような考え方なのか、それを実践するためにはどうすればいいのか――。

山口絵理子氏の著書「Third Way(サードウェイ)第3の道のつくり方」の中から今回は、仕事をする上で対立が起きやすい「ロジカルとクリエイティブ」「経営とものづくり」について、サードウェイのフレームワークで解決する方法を紹介する。

何のためにつくるのか?
私の肩書きは二つある。

「代表取締役社長」と「チーフデザイナー」。経営とデザイン。ロジカルとクリエイティブ。対極にあってケンカしやすい二つの立場が、私の中で同居している。

最初からそうなろうと、ねらっていたわけではない。

社長になったのは、勢いでつくったバングラデシュ製のバッグを売るために会社の登記が必要になったからだったし、デザイナーの役割を担うようになったのは、「いいものをつくらなければならない。自分しかいない」という現実的な必要性から生まれた。

もともと手を動かすのが好きで、口よりも手で自己表現するタイプだったけれど、デザインが本業になるとはまったく思っていなかった。

バングラデシュの工場にバッグ製作を依頼するようになった当初は、日本で知り合った外部デザイナーにデザイン画を描いてもらい、バングラデシュの工場に持ち込んで渡していた。

「かっこいいデザイン! 完成が楽しみだなぁ」。つくってもらったデザイン画をもとに、ワクワクしながらとりかかる。ところが、現場でつくり始めると、なかなか絵の通りにはいかないことが多かった。

そもそも日本とバングラデシュでは、革を切る道具も、型紙として使用する紙の硬さも、持ち手の中に入れる紐の材質も、全部異なっていた。そしてバッグの概念も、現地では「荷物を入れるもの」という価値観。日本のように「ファッションアイテム」という要素が加わると、価値観の違いが立ちはだかった。

「なんで裏地が必要なのか?」

「なぜポケットが必要なのか?」

現地では、そんな質問を受ける。実用性とファッション性のギャップ。現地の職人は絵を見ながらなんとかバッグをつくるが、何度やっても、自分のイメージと違うものができあがる。

「デザイン画を描き直してもらいたい」と思うけれど、そのためだけに日本に帰国してまたバングラデシュに戻ってくるのは、どう考えても非現実的。国際電話をかけようにも、電波状況もよろしくない。

こういうのって、現場ですぐに判断できないと、らちが明かないよね? それができるのって、私しかいないよね……?

必要に迫られて、私は「デザイナー」にならざるを得なかったのだ。

と言っても、クールなオフィスでサラサラと絵を描くような姿はほぼゼロ。ひたすら、工場に張り付いて、バッグの模型になる「型紙」からつくり始めた。専門学校を出たわけでもない私は、とりあえず、工場のみんながつくったものをバラバラに解体することから始めた。そして、バッグの模型となる「型紙」づくりから着手した。

型紙は厚紙でつくるが、それができたら革を裁断する、縫製する、組み立てる。気がつくと、型紙からバッグづくりまでできるようになり、これまで作成してきた数は4000種類を超えた。

二つの視点から見えるもの
必要に迫られてデザイン、というべきか、ものづくりを始めた私。でも、その奥深さや過酷さ、尊さはまったくわかっていなかった。春夏、秋冬と大きくは年に2回、バッグの新作を出す。コンセプトづくりから販売に至るまで、1年以上かかる場合が多い。

経営をしながら商品をデザインする。これは、右脳と左脳の両方が真反対の方向に働く作業だ。最初の数年は頭が混乱して、自分の中に二つの人格が現れて、常にケンカしていた。

「こんなものをつくりたいな!」とデザイナーの私が言うと、「原価率は? 生産効率は? 今は素材に投資すべきじゃないよ」と経営者の私が質問を投げかける。表現をしたい自分と、それを押さえつける自分は、共存できないと思っていた。

苦しくて仕方がなかった。ファッション業界のデザイナーの先輩からは「クリエーションに集中しないなんて、デザイナーとして一流にはなれないだろう」と言われたこともあった。副社長の山崎に思い切って告白した。

「社長を交代してほしい。私はデザインに集中したい。ものがすべてなんだ。だからデザインでこの会社を牽引できるように私から代表という肩書きを外してほしい」

彼は「二つやることで見えてくるものがあるはずだよ。それにこの会社は山口の思いで生まれたんじゃないか」と言った。

私は葛藤をもち続けながら、それでもバッグ、ジュエリー、アパレルとすべてのデザインの99%をやり続けてきた。

その先に見えたこと。それは――。

経営とデザインは、二項対立ではない。

両者をかけ算して初めて、

ブランドがらせん階段のように一歩一歩成長できる。

そして、二つの視点からプロダクトや組織を見ることで、

ベストな判断ができる。

経営にデザイン的思考は必ず必要で、デザインに経営的思考は欠かせない。

サードウェイ的視点がなければ、どちらか一方に偏っていたが、今は、両方やってきて本当によかったと思っている。

売り上げは幸福の総計

そもそも、デザインと経営が二項対立ではないと、本当に心から腑に落ちたのは、「なぜモノをつくるのか?」という問いからだった。デザイナーのゴールとは自己表現なのだろうか? それならばアーティストとどう違うのか?

私はいつも悩んでいたが、ずっと消えない思いがあった。「お客さんに届かなければ工場のみんなのがんばりは報われないなあ」という素直な気持ち。

デザイナーは、「モノをお客様に届ける」のが最終ゴールだ。

ブランドの世界観をプロダクトで表現することや、自分の主張を表現することではない。

たとえ世界観が達成できても、それが、お客様の手に届くことが結果的にできなければ、少し荒っぽい言い方だけれど、ゴミを生産しているのと、何ら変わらない。

だからこそ、私は、「結果にこだわる」ことが何よりも大事だと思ってきた。

売り上げをデザイナーが意識することは、とても大事だと思っている。私は、毎日お店の日報を見ているけれど、新作が出た日の日報は、今でも怖くて直視できない。

売り上げは、つくったものがお客様の手に届いている総計。デザインによって生まれた幸福の総計なんだ。

売り上げではなく、世界観や自己表現を最上位のゴールに置いていた自分は、大きなものから逃げていた気がする。

そんな私のこだわりは、モノから店舗空間へと自然と拡大していった。「このバッグはどのような店舗で、どのような棚で、その棚はどんな色であるべきか?」今でも店舗設計のスタッフと共に、お店づくりに深く関わっている(私たちのこだわりは強く、什器を発注していた工房を吸収合併してしまったほど!)。

そして、お店の次にはこんな問いが生まれる。「そこでお客様に対してお話をするスタッフは、どんな人であるべきだろうか?」最後にお客様に手渡しするのは、人なのだ。せっかくお店も商品もいいのに、接客でがっかりした経験は誰にでもある。

私たちは、販売スタッフのことを「ストーリーテラー」と呼んでいる。モノを売るだけではなく、商品の背景にある思いをお客様に伝える伝道師だ。今、私たちは8割の正社員比率だが、小売にしては異常なこの比率には、やはり「モノを届けるのがゴール」という精神が強く流れている。そうなると、チームづくりや、採用計画、人事制度と、徐々にこだわりが派生していった。

その道のりはとても長いが、私は思った。「結果にこだわることで、利益は、循環して、またものづくりの自由度を増してくれる」と。

引っ張り合いながら、上へ上へ

イメージするなら、私の中に経営者とデザイナーという二人の人間がいて、いつも綱引きをしている感じ。

経営者としての自分に引っ張られ、

デザイナーとしての自分に引っ張られ、

綱はより強く、しなやかになる。

そして、ピンと張られた緊張感を保ったまま、

上へ上へと少しずつのぼっていく。

大事なのは、それらが引っ張り合うことであって、決してテンションを緩めて「妥協点」や「最適なバランス」を見つけようとしているわけではない、ということだ。二つの軸からものごとを見て、かけ算で意思決定する感覚に近い。

お店を回るときにも、私は数字と直観の両方の視点で、売り場を眺める。「この時期にはどんな商品がどれだけ売れて、次に売れるのはこれだから、こんな配置にしました」というふうに、ロジックで計算されただけでは、売り場はどこかチグハグになる。

頭では理解できても、感覚的になんか変。どこか美しくない。そこに立った瞬間に、心がふわっと浮き立って、ぐるっとお店を回りたくなる。そんなパワーを宿らせるには、ロジックだけじゃ足りないのだ。

このときに、「こっちのほうが美しいから」とロジックを覆せるほどの感覚を持ち合わせていれば、より精度の高い決定が早くできる。「もう少しこっちかな。いや、行きすぎじゃない? じゃ、このあたりでやってみようか」と、一人の人間の中で両極の視点を戦わせながら、私はものごとを決めている。

もう一つ大事なことは、意思決定を伝える際、

デザインの視点と経営の視点の両方から

チームに共有することだ。

人間だから、ロジックから理解できる人もいるし、文字や数字ばかりだとスムーズに消化できない人も、一枚のビジュアルなら納得できる人もいる。両方のアプローチからコミュニケーションを心がけ、あるいはその場その場で、使いやすいカードを出していく。大きい組織ほど、両方が必要になることを忘れてはいけない。