リゾート地で働いた社員はなぜ、成長して戻ってくるのか ヌーラボの「リゾートワーク」、ちょっと変わった条件とは

「毎日、決められた時間に決められた場所へ出社して仕事をする」働き方から、「社員それぞれの家庭の事情やライフスタイルに応じて、自由な場所と時間を選べる」働き方へ――。

少子高齢化による人手不足が深刻さを増す中、より柔軟な働き方に対応する企業が増えている。それに伴い、ITツールを活用した「テレワーク」や「リモートワーク」を、制度として正式に取り入れる企業も、徐々に増えつつある。

こうした中、さらに先を行く「リゾートワーク」という働き方を、社内制度として導入した企業がある。福岡に本社を置き、プロジェクト管理ツール「Backlog」、ビジュアルコラボレーションツール「Cacoo」、ビジネスチャットツール「Typetalk」といったプロダクトを開発し、提供するヌーラボだ。

「リゾート地でのリモートワーク」といえば、日本航空が2017年に導入した「ワーケーション」が有名だ。「ワーケーション」は、「ワーク」と「バケーション」の組み合わせによる造語で、休暇中における旅先でのリモート就業を「勤務として認める」というもの。ただ、ヌーラボの「リゾートワーク」は、一般的な「ワーケーション」とは、仕組みと「狙い」が違っているようだ。

ヌーラボが、「リゾートワーク制度」を正式に導入したのは、2018年6月。希望する社員の沖縄県宮古島市におけるリモート就業を支援するという内容で、2019年5月には、リゾートワーク制度の実施場所として、

北海道上川郡東川町が追加され、これまでに11人の社員がこの制度を利用した「リゾートワーク」を行ったという。

ちょっと意外なリゾートワークの条件とは
ヌーラボのリゾートワークで興味深いのは、制度が「単にリゾート地からリモートで仕事をする」だけにとどまっていない点だ。

「当社のリゾートワーク制度は、あくまでも社員の教育研修の一環と捉えています」――。ヌーラボで人事を担当する安立沙耶佳氏は、こう話す。実は同社のリゾートワーク制度は、実施先である沖縄県宮古島市、及び北海道上川郡東川町の教育委員会と連携しており、それぞれの地域の学校で「特別授業を行うこと」が、リゾートワークの条件になっているのだ。

リゾートワークの希望者は、自分の「授業プラン」を提出してエントリーし、その内容や、他の社員の応募状況などをもとに会社側が精査する。その結果、許可が得られてはじめてリゾートワークができるという仕組みだ。

リゾートワークをするに当たって企業側が補助するのは、リゾートワークをする場所までの社員とその家族の旅費、現地での滞在費の一部(定額)。現在、リモート就業の期間は特に定められておらず、現地での授業(これも勤務の一部になる)さえ行えば、滞在期間中、毎日仕事をしても、大半を有給休暇の消化に充てても良いというルールだ。

ちなみに、制度を利用した社員は、後日、その体験談を同社のブログに記事として公開することになっている。

こうしたルールから分かるのは、同社の「リゾートワーク」が、福利厚生というより、「教育研修」に近い性格の制度になっていることだ。同社が、このような形での「リゾートワーク制度」を始めた理由は何だったのだろうか。

きっかけは、宮古島市が、所有する施設の一部を「シェアオフィス兼コワーキングスペース」として企業に貸し出すことを決め、その誘致を受けてヌーラボの代表取締役を務める橋本正徳氏が視察に訪れたことだったという。

宮古島の施設を視察した同氏が、そもそもヌーラボが「地球上のどこにいてもオンラインで仕事ができる」環境をサポートするプロダクトを提供する会社であることに加えて、社員にとって「非日常」の空間である宮古島に滞在し、そこで仕事をすることが、社員にとっても何らかの刺激になるのではないかと考えた。

さらに、「リゾート地でのリモート就業」を、より成果の見えやすい制度に落とし込むための仕組みとして、滞在地の教育委員会との連携による「学校での授業」というスタイルをとった。

これは、同社の代表である橋本正徳氏が、本社を置く福岡市で、市内の学校に通う生徒の「キャリア教育」の一環として、講演を行っていたことがヒントになったという。

「自分がやっている仕事や、そこでの経験などを子どもたちに話すというのは、自分のキャリアについてポジティブに捉え直す良いきっかけになる。社員にも、できればそうした機会を持ってほしいというのが、代表の実体験から出たアイデアでした」(安立氏)

このアイデアと、実施先である宮古島の教育関係者の「島の子どもたちに、できるだけ多くの仕事についての知識を得る機会を与えたい」というニーズが一致した結果が、同社の「リゾートワーク制度」の骨子になっている。

目的は「非日常の体験から新たな視座を得ること」
同社でプロダクトマネジャーを務める吉澤毅氏は、リゾートワーク制度を活用したことがある社員の一人だ。宮古島でのリモート就業は、作業を中断させる要素が少ない分、「非常に高い集中力で仕事ができた」という。

「やらなければならない仕事を早く済ませて、島でのレジャーを楽しみたい――という気持ちになるのが面白かった。予想以上にモチベーションが上がりましたね」(吉澤氏)

吉澤氏は、リゾートワークと合わせて有給休暇も取得。現地でレンタルできる原付バイクで島内を散策し、「リゾート」としての宮古島も満喫したという。

担当した特別授業のタイトルは「英語を話せなかった僕がシンガポールで働いてきた」。吉澤氏は、ヌーラボがシンガポールに拠点を立ち上げた際に、1年半ほど現地に滞在して仕事をした経験がある。それまで英語が話せず、海外に行ったこともなかった自分が、現地でどのように英語と向き合い、何を考えたのかについて、中学2年生に向けて話したそうだ。

「授業での子どもたちの反応や、彼らとの対話は非常に新鮮でした。また、授業後に、現地で教育に携わっている方々と食事をしながら、宮古島が抱えている課題などを、生の声として伺うことができました。

私は普段、オンラインでチームのコラボレーションを行うためのプロダクトを作っていますが、そのユーザーとなり得る人たちが、どんな課題を抱えているのか、それを解決していくために、自分たちの立場で何ができるのかを考える良いきっかけになったと思います」(吉澤氏)

同社のリゾートワークは、今のところ「非日常の体験から生まれる新しい視座」を社員に得てもらうことに主眼を置いている。また、同行する家族の旅費も一部負担していることで「社員の家族にも、会社に対するエンゲージメントを高めてもらうという効果が生まれている」(安立氏)という。合わせて、この制度を発表した後には一時的に入社希望者も増え、採用面でもプラスの効果が認められたそうだ。

「これは制度の導入後に感じたことなのですが、ヌーラボの場合、中途採用が多かったり、社員の入れ替わりが比較的少なかったりといった理由から、社員の平均年齢が30代半ばと、少し高くなっています。そうした年齢層の社員に、どのような形で研修を行うのが良いかと考えたときに、管理職としての一般的な知識を身につけるマネジメント研修は、あまり効果的ではないようにも思っていました。

むしろ、一時的に非日常に身を置き、“授業”という形で自分の知識や考えを伝えるという実体験からのほうが、本人にとっても、会社にとっても得られるが多いのではないかというのが、リゾートワーク制度を『研修』に位置付ける理由にもなっています」(安立氏)

「コミュニケーション」「管理」「評価」の最適解を模索
リゾートワーク制度を導入するにあたって、ヌーラボでは、情報管理の規程などに特別に手を入れる必要はなかったという。「業務中にPCの前を離れる際には必ずロックをかける」「端末の紛失や盗難があった場合は速やかに届け出る」というようなルールは、一般的な出張やリモートワークの際に注意することと全く変わらない。

興味深いのは、リゾートワークを展開している同社が、個々の社員の「完全なリモート就業」については「まだ最適解が見えていない」と、慎重なスタンスをとっていることだ。同社の場合、国内3カ所(福岡、京都、東京)と海外3カ所(ニューヨーク、アムステルダム、シンガポール)に拠点を置いていることもあり、そもそも普段から「遠隔地にいる同僚とのコラボレーション」が必須の環境でもある。

その一方で、年に1回は全拠点の社員が一堂に会する機会を設けているほか、入社にあたっては、最寄りの拠点に「通える」場所にいることが、条件の1つにもなっている。

「完全なリモートワークに関しては、社員の管理と合わせて、その成果をどのように評価するのがベストなのか――という点でも、まだ解決すべき課題が多いと思っています。現状では、個々の社員の性格や事情などをマネジャーが把握できていなければ評価も難しいといった現実もあり、最適解を模索している状況です。

もちろん今後は、ヌーラボが提供するツールで、そうした課題を解決し、メンバーがどんな場所にいても、問題なく一緒に仕事ができるという環境を広げていきたいと考えています。ヌーラボのリモートワーク制度は、そうした企業のミッションとうまく接続できているからこそ、継続できているのかもしれません」(安立氏)

同社に限らず、テレワークやリモートワークの導入拡大が難しい理由として「コミュニケーションが不足する」「マネジメントや評価が難しい」といった課題が挙げられるケースは多い。こうした状況を打開するための方針として、ある程度、期間や就業場所、ルールが決められたリゾートワークを「研修」として先行導入し、そのメリットやデメリットの分析をフィードバックするというのも、1つのやり方のように思える。

ヌーラボの「リゾートワーク制度」には、2019年から、主にWeb受託開発事業を展開しているベンチャー企業「プラハ」も参画を発表している。「研修」の一環としてのリゾートワークのスキームに関心を示す企業は、今後も増えるのではないだろうか。

「社会的な『働き方改革』への関心は高いですが、その実現にあたっては、企業側の目線から、“社員をどう管理するか”“KPIをどこに置くか”といったことばかりに意識が向いていることが多いように感じます。

本来であれば、社員に『どのように働いてほしいのか』『何を受け取ってもらいたいのか』を考え、それを阻害する仕組みやルールを変えていくことが改革の本質で、それがない『働き方改革』には、あまり意味がないなと感じながら、われわれ自身も試行錯誤をしています」(安立氏)

【企画・構成 インタビュー:後藤祥子(編集部)】