がれきで生き埋めになる市民、血を流しながら担架で運ばれる少年--。7日以降イスラエル軍による空爆が続くパレスチナ自治区ガザ地区で、20年間医療支援活動などをしてきた医師で神奈川県海老名市のNPO法人「地球のステージ」代表理事の桑山紀彦さん(60)は、現地スタッフから日々伝えられる惨状に心を痛めている。「水も食料も燃料も枯渇している。20年で最悪の状況」だとして、早期の事態打開の必要性を訴える。
心療内科医の桑山さんは2002年に世界の紛争地で子どもの心理的ケアを行うNPOを設立。ガザでは03年に事務所を開設し、これまでに心に傷を負った子どもたち約3000人の支援をしてきた。09年1月にはイスラエル軍から攻撃を受けていたガザに自ら入り、救急医療活動にあたった。
当時の様子について、「昼夜問わず目と鼻の先で爆撃音が聞こえた。恐怖とともに、『お前は殺されてもいい』と言われているような屈辱感も感じた」と振り返る。病院に運ばれてくる負傷者の多くは子どもで、「家族とはぐれたまま亡くなった子どもも大勢いた」という。
一方で、「爆音が聞こえると死を意識し、着弾音がすると生き延びたと胸をなでおろす。自分以外が犠牲になっているにもかかわらず、ほっとしたような感情がわいてしまうことに対する惨めさもあった」と、生と死が隣り合わせの極限の状況で感じた複雑な胸中も明かす。
そのうえで、こう懸念を強める。「現地で5日間しか活動しなかった自分でさえ、心理的に追い込まれていた。今のガザの人たちの状況は想像を絶する」
現状は、現地スタッフでジャーナリストでもあるモハマッド・マンスールさん(26)から日々報告を受けている。「約50人が住む家が爆撃された。ほとんどが子どもだった。一体何が起きているんだ。避難民も容赦なく殺されている」。窮状を訴えるメッセージが頻繁に届く。
マンスールさんは写真や動画を撮影し、惨状を記録している。桑山さんは23日に送られてきた写真が強く印象に残っている。それには倒壊した建物の前で、市民が猫を抱きかかえる姿が写っていた。「空襲から逃げる場所がない中でも、小さな生命を大切にするガザ市民の『人間らしく生きたい』という気持ちが伝わってくるようだった」と話す。
ガサは7日以降「完全封鎖」状態にあったが、エジプトとの境界にあるラファ検問所が21日に開通し、初めて支援物資を積んだトラック20台がガザに入った。ただ物資や燃料の不足は依然として深刻で、桑山さんは「物資搬入は極めて限定的だ。飢えや渇きで、ガザ市民の孤立感は増している」と指摘する。
NPOでは、今後事態が沈静化した際に支援物資などを提供するため、資金を募っている。桑山さんは事態の改善には国際社会の関心が不可欠だとし、「日本の人たちにも複雑に絡み合った双方の思惑や歴史に関心を持ってもらいたい。遠いかもしれないが、それが平和につながる」と呼びかけている。募金の詳細はNPOのホームページ(https://e-stageone.org)で公開している。【園部仁史】