「見切り発車」で誤認逮捕、被害者安全を優先 慎重捜査で〝真犯人〟へ 大阪府警

交流サイト(SNS)で女性を脅したとして、大阪府警は26日、強要未遂と脅迫の疑いで、女性の友人で美容師の山本紘平容疑者(31)=大阪府枚方市高田=を逮捕した。容疑を認めているという。この事件では別の男性が誤認逮捕され、釈放されていた。府警は山本容疑者が男性になりすまして送信したとみて調べる。
事件と無関係な男性を40日以上身柄拘束する事態を招いた大阪府警。誤認逮捕発覚から3カ月余り。慎重に進められていた再捜査は26日、ようやく容疑者の逮捕に行き着いた。
「二度と同様なことを繰り返してはならない。慎重には慎重を期す」。誤認逮捕後、ある府警幹部はこう話した。
捜査関係者によると、山本紘平容疑者の関与の疑いが浮上したのは「男性を釈放後、割と早い段階」だった。女性を脅迫したメッセージのアカウントの一つは3月21日、大阪府北部でWi―Fi(ワイファイ)を通じて作られたことが判明。周辺の防犯カメラ捜査などから、山本容疑者がその場にいたことが裏付けられるなど証拠は確実に集まっていった。
だが「今回は絶対というレベルまで確証がないと勝負できない」(捜査幹部)とし、時間をかけて捜査を進めた。本来こうした捜査を踏むべきだったにもかかわらず、誤認逮捕に至った背景には、女性の安全確保を急ぐあまり、基礎捜査を怠った判断ミスがある。
「男性から脅されている」と女性から府警守口署に相談が寄せられたのは今年3月下旬。SNSのアカウント名に男性の名字が使われており、府警は男性に警告したが、その後もメッセージは止まらなかった。
《お前がその気なら俺もとことんやってやんよ》。警察への相談をとがめる内容だったといい、「安全確保のため早急な対応が求められた」(府警幹部)。メッセージの送信元を特定するにはIPアドレスの照会が必要だが、相当な時間を要する。そこで人命の安全確保を優先した。こうした対応について別の府警幹部は「加害者の身柄を押さえる前に家宅捜索を先行させたり、一時保護施設などで女性を保護したりする選択肢もあった」と指摘する。
証拠が十分そろわない中、逮捕以外の手段で被害者を守る選択肢が十分検討されたとはいえず〝見切り発車〟との批判は免れない。「誤認逮捕はあってはならない。基礎捜査の欠如だ」。別の府警幹部は話す。
平成24年8月、府警は大阪市のホームページに無差別殺人の予告をしたとしてアニメ演出家を誤認逮捕。この演出家のパソコンは外部から遠隔操作できる新種のウイルスに感染していた。
今回はアカウント名に別人の名前を使ったに過ぎない単純な手口だったが、11年前の教訓が生かされることはなかった。
男性の代理人、森島正彦弁護士によると、男性は釈放後も身柄拘束時の恐怖を思い出して夜もうなされ、ネット上の誹謗(ひぼう)に苦しんでいるという。森島弁護士は「警察や検察庁は誤認逮捕がいかに多大な苦痛を与えるかを認識し、賠償や再発防止策を講じてほしい」と訴える。