岸田文雄首相が財務省と国民の人気取りとの間で迷走している。
臨時国会の所信表明演説で、経済対策の重視を打ち出した。特に国民への「税収増の還元」を打ち出し物価高対策に充てるとし、またコストカット型の経済から持続的な賃上げや企業の投資の拡大を目指す成長型経済を目指すとした。この姿勢は評価できる。
だが各論になると迷走ぶりが際立つ。自民党の世耕弘成参院幹事長からも「税収増の還元」が具体的に何を指しているのか方針が分からないと苦言を呈された始末だ。
経済政策には正しい政策割り当てが必要になる。なにも難しいことではない。いまの日本は物価高だ。この物価高に国民の生活は苦しんでいる。物価高になる原因は通常は2つある。1つは国民がたくさんモノやサービスを消費することで生じる総需要拡大による。もう1つはいわゆるコストプッシュ型だ。石油や天然ガスなどのエネルギーや小麦などがそもそも不足することで生じる物価高だ。いまの日本の物価高は明らかに後者のコストプッシュ型になる。前者の国民の消費は低迷したままだ。
日本のマスコミの多くは、識者たちを動員して「インフレなのに減税すると国民がさらに多くのものを買ってますますインフレが上昇する」と宣伝している。それは単に間違いだ。消費のレベルはコロナ禍前の2019年の消費増税で打撃を受けた頃と大差ない。国民の財布の中身は傷んだままなのだ。消費を刺激するには、もちろん消費減税がいまの日本ではベストだ。だが、消費減税を岸田首相は全力否定している。まさに〝ザイム真理教〟の信者である。
ならば所得減税が次の候補になる。この時、総額が重要になる。日本経済全体の消費不足が問題だからだ。総需要不足は最低でも10兆円、最高で20兆円になる。低所得層への給付金政策もこの大枠の消費不足を解消する一助になる。
だが、鈴木俊一財務相は「総額ありき」ではないと何度も牽制(けんせい)している。そのため岸田首相からは総額への明瞭な方針はない。ここでも〝ザイム真理教〟のブレーキがかかっている。
物価高対策という世論受けしそうな経済対策を唱えてみたものの、財務省の緊縮姿勢を打ち破れない。所得税減税も「期限付き」で、報じられている金額も4万円と少額だ。景気対策というより再分配政策である住民税の非課税世帯への給付金は7万円だという。
所得減税には法案改正が必要で、実施は来年の夏になる。あまりにも遅い。足元の景気対策を行うならば全て給付金で、国民1人当たり10万円を配布し、岸田政権であるかぎり増税・増負担はしないと公約した方がいい。 (上武大学教授・田中秀臣)