19人死傷の山車横転、4年ぶり運行で未経験者も多く…下り坂で「ガガガと下ってきた」

静岡県の伊豆の国市田京で祭りの山車が横転し、1人が死亡、18人が重軽傷を負った事故から10日で1週間となる。4年ぶりの山車の運行で、指揮する祭りの実行委員の中には未経験者も少なくなかったといい、新型コロナ禍も要因の一つになった可能性が指摘されている。近年、全国でも祭りに関係する悲惨な事故が相次いでおり、安全対策が求められている。(栗山泰輔、高橋健人)

地元住民によると、山車は祭りの実行委員を務める消防団員らが運行指揮にあたっていた。それぞれの山車に10人ほどがついて、笛を吹いたり声をかけたりして、30人ほどの引き手を誘導する役割があった。
「通常は経験のある若手消防団員が多く参加するが、コロナの影響もあり今回は半分近くが未経験者だった」。同市田京地区の役員を務め、祭りを経験してきた男性役員は語る。
下り坂では、山車の前方で引いていたロープを後方に回し、後ろから引きながら坂を下るのが基本とされているが、事故当時はそうした動きになっていなかったという。この役員は「方向転換の際、引き手はロープを手放し、実行委が山車を動かす」と話す。引き手の一人も「実行委の切り返しを待っていた時に、山車が『ガガガ』と下ってきた」と振り返った。
捜査関係者は「メインで山車の運行を担っていたベテランがいなくなるなどしていた。コロナ禍も一つの要因となっていただろう」と指摘。県警は業務上過失致死傷容疑を視野に当時の状況を調べている。

数トン程度の重さがある山車は大型車両に匹敵するが、運行に特別な資格は不要。横転や接触による事故は近年、各地で発生している。
今年4月には、堺市の市道でだんじりが方向転換する際に横転し、だんじりに乗るなどしていた16~49歳の男性11人が重軽傷を負った。7月には福岡市博多区の祭りで担ぎ手として参加していた男性が「山笠」にひかれて死亡している。
県内でも今年8月、浜松市天竜区の二俣まつりで山車を引いていた男性が転倒し、山車と接触し、軽傷を負った。
こうした事故を教訓に各地で対策も進む。愛知県豊田市では昨年10月、 挙母 (ころも)祭りで引き回しをしていた男性が山車にひかれて死亡した事故を受け、参加する八つの地域が勉強会を開いてきた。挙母祭り保存会の会長は「当時は3年ぶりの開催で気の緩みがあったかもしれない。教訓を生かし、山車が転回するポイントの確認、参加者全員による声かけの徹底、飲酒の禁止など『心・技・体』で安全対策を徹底して大きな事故がなく今年は開催できた」と話した。