我々庶民が「キャッシュレス決済すれば3%ポイントが還元される。これはデカい!」なんて話で盛り上がっている中、日本を代表する大企業の「キャッシュバック」が明らかになった。
関西電力の幹部20人が、原発関連事業を発注した企業の役員などを務め、福井県高浜町で「影の町長」などとささやかれていた元助役・森山栄治氏(故人)から、計3億2000万円分の金品を受け取っていた問題のことだ。
一般的な「原発マネー」は、電力会社から「地元対策」の名目で地元企業にバラ撒(ま)かれるイメージだが、今回は逆で、原発の警備業務を受注する警備会社や、メンテナンス会社、原発関連工事を受注する地元建設会社が森山氏を通じて、関電幹部らにカネを「還元」しているのだ。
まさしく「原発キャッシュバック」ともいうべき構図だが、ここから我々庶民が思い浮かべる言葉一つしかない。大型事業が発注できた見返りや、継続的に良好な関係を求めるがゆえ、発注金額の一部を戻す――いわゆる、キックバックだ。
実際、3億2000万円を出したという地元ゼネコンの売り上げは2013年に3億5000万円だったが、森山氏の「関電詣で」がスタートしてから順調に成長を遂げ、18年にはなんと6倍以上の21億8000万円になっているという。
もちろん、関電側は森山マネーが関連企業への発注に影響を及ばしていない、と完全否定しているが、関電側が詳細に釈明すればするほど疑惑が増すという皮肉な現象が起きている。例えば、06年の関西電力
原子力事業本部の本部長代理時代から金品を受け取っていた、八木誠会長の以下の証言である。
『森山氏は八木氏に対しお中元、お歳暮のほか、年に1、2回、面会のたびに金品を提供。八木氏は「常識を超えるような金品だった」と話し、「受け取りを断ると、激高された」と説明』(朝日新聞 9月28日)
と聞くと、心付けをゴリ押しする迷惑なおじさんという印象を受けるかもしれないが、森山氏がこういうリアクションになること自体、これがキックバックであることの証といってもいいのだ。
相手の「弱み」を握ること
当たり前の話だが、キックバックとは、便宜を図ってもらいたい相手に受け取らせないと意味がない。「いやいや、こんなものいただけませんよ」「いただいても我々には何もできませんよ」なんて感じで受け取りを拒否されても、引き下がったらミッション失敗。森山氏のように激高してでも、とにかく相手の懐に納めさせるものなのだ。
なぜかというと、相手の「弱み」を握ることになるからだ。
事業を発注するなど優位的な立場にある側が、発注先からカネを受け取るのはかなり後ろめたい行為であることは言うまでもない。それは、後で返却をしようが同じである。そういう罪悪感は、カネを支払った者への「配慮」につながる。
受け取った事実をバラされることを恐れて、排除や冷遇はできない。そういう気遣いをする幹部が関西電力の中で増えていけば当然、森山関連企業はじわじわと優遇されていく。裏金やリベートを渡す「裏工作」というものは、すぐに効果が出なくとも、受け取った罪悪感からじわじわと時間をかけて効果が出るものなのだ。
こういうキックバックの本質が分かれば、森山氏がさまざまな原発関連事業を請け負う企業の役員や相談役になった理由も見えてくる。関電幹部らが面会をせざるを得ない「地元の大物」で、なおかつ相手が嫌がろうが拒否をしようが、きっちりと「カネ」を受け取らせる押しの強さがあったからである。
つまり、八木会長の「受け取りを断ると、激高された」というエピソードは、自分が役員を務める企業に便宜を図れと迫る“フィクサー”としての立ち振る舞いとしては極めてナチュラルで、キックバックの疑いをさらに強めさせるだけなのだ。
「政界キックバック」ともいうべき裏金工作
その一方で、「森山氏側がどういう意図で金品を渡したとしても、受け取った関電幹部も大問題だ!」とご立腹の方たちも多いだろう。専門家の中でも、「公益性の高い原発をやっていてこのモラルの低さはあり得ない」という批判がわき上がっている。
ご指摘はごもっともだ。が、関電幹部がカネを受け取ってしまったのは、彼らがそろいにそろってモラルが壊れているとかではなく、原発という事業を長くやってきたことが大きく関係している。原発をやってきたからこそ、この手のカネに対する抵抗がなく、ちょっとゴネると「はいよ」という感じで受け取ってしまうのである。
なぜかというと、関電自身も森山氏のようなことをやって、原発導入にこぎつけてきたという歴史的経緯があるからだ。
「漢方薬のように時間をかけて効果が出ることを期待していた」(朝日新聞 2014年7月28日)
これは関西電力の元副社長である内藤千百里氏が、田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、鈴木善幸、中曽根康弘、竹下登らの歴代首相7人に「盆暮れに1千万円ずつ献金してきた」(同紙)という政界工作について述べた言葉である。
電力会社は1974年に企業献金を廃止していたが、内藤氏によれば、関西電力は水面下で政治家に「カネ」を払い続けていたという。その目的はすぐに何かで便宜を図ってもらうことではなく、原発導入に対してほんの少しの「配慮」を求めただけである。だからこそ、森山氏のように「カネを受け取らせる」ことにこだわった。内藤氏がこのカネを、すぐに効果のあらわれる「薬」ではなく、「漢方」と表現したのは、そのような長期的な展望に基づくバラ撒きだったからだ。
「天下国家のために渡すカネで、具体的な目的があったわけではない。許認可権を握られている電力会社にとって権力に対する一つの立ち居振る舞いだった」
そんな立ち振る舞いは、72年から18年間に及んだ。この内藤氏の「政界キックバック」ともいうべき裏金工作が功を奏したからか、関西電力は多くの原発を稼働させて収益を上げることに成功。震災前は5割を超える高い原発依存度につながったという。
嫌がる相手にカネを渡して黙らせる
このように表にならない形で「カネ」をバラ撒いてきたのは、政界だけではない。「地元対策」の名目で、反対する住民などにもバラ撒かれ、時にはマスコミ、地元メディアなどにも「
広告」や「取材協力費」の名目で原発マネーが注入されたのは、ご存じの通りだ。
つまり、原発というのはそもそも、「反対する人々にカネをバラ撒き黙らせる」ことで成立するビジネスモデルと言ってもいいのだ。こういうカネのやりとりが当たり前の世界で生きてきた人たちに、「なぜ森山氏の金品を受け取ったのだ!」と責めるのはある意味で酷である。
モラルが低いとかなんだではなく、「カネを払ってその見返りを期待する」というキャッシュバックが彼らの「常識」なのだ。
関西電力は明日(10月2日)にも会見を催して、さまざまな疑惑に対して説明をするそうだが、詳しく語れば語るほど、世間の常識とかけ離れた「原発」という世界の非常識さが浮き彫りになる可能性が高い。
どんなに驚きの会見になるのか、注目である。
(窪田順生)