<独自>陸自の高額賠償、不適切支出か バス事故で骨折の乗客に7千万円超 防衛省調査

熊本県のトンネルで12年前、陸上自衛隊のトラックが観光バスと衝突し22人が死傷する事故があり、陸自側が右腕を骨折した乗客の女性に事故後約10年間で総額7千万円超の賠償金を支払っていたことが11日、産経新聞の調べで分かった。法曹資格を持つ予備自衛官から「賠償額が高すぎる」との指摘を受け、昨年夏ごろに支出をやめた。防衛省は不適切な支出だった疑いもあるとみて調査を進めている。
事故は平成24年1月、熊本県八代市の生名子(おいなご)トンネルで発生。トラックと衝突したバスの乗員1人が死亡、乗客ら21人が重軽傷を負った。関係者の話などによると、乗客だった当時60代の女性は、右腕骨折や頸椎(けいつい)捻挫などと診断された。
ほどなくして医療費や休業損害といった名目で、陸自西部方面総監部(熊本市)から女性に毎月数十万円程度の支払いを開始。約10年間にわたって120回超の支払いを続け、総額は7千万円を上回っている。
女性は当初から陸自側担当者との面会を断り続けた。事故から約2年後の25年末を最後にけが自体を治療した記録は途絶えたが、さらに適応障害などとも診断され、長期にわたり、少なくとも月1回のペースで通院を続けていたとみられる。
令和4年以降、けがの治療が終了している可能性があるにもかかわらず、当初と変わらず支出が続いていることを問題視する声が陸自内部で浮上。総監部側が予備自衛官に任用されている弁護士に見解を尋ねると、賠償額が一般的な相場を大幅に超過しているとして「支出をストップすべきだ」と指摘されたため、昨年夏ごろに支払いをやめた。
また、防衛省の訓令によると、事故の損害賠償額が4千万円を超える場合、支出の可否は防衛相が判断する事項となるが、超過後も報告されていなかった。支出が続いた理由は判然としておらず、防衛省関係者によると、陸自側が一連の支出について内部調査を進めている。
同省報道室は「万が一、不適切な手続き等があった場合は、判明した事実関係に基づき厳正に対処する」としている。(調査報道班)

生名子トンネル事故 平成24年1月28日午前8時半過ぎ、熊本県八代市の九州自動車道上り線の生名子トンネル内で、陸上自衛隊えびの駐屯地(宮崎県)所属の大型トラックが、落ちていた毛布を避けようとして車線変更した際、トラックの右後部が観光バスの前方部と衝突。バスの添乗員だった男性=当時(39)=が死亡し、21人が重軽傷を負った。