皆さまこんにちは。飲食店コンサルティング会社スリーウェルマネジメント代表の三ツ井創太郎です。今回から、皆さまが日頃なんとなく利用したり、見たりしている飲食店のビジネスモデルやマーケティング戦略に関して、分かりやすく解説していく記事を連載させて頂きます。よろしくお願い致します。
3年連続で顧客満足度1位を獲得
第1回のテーマは「リンガーハットが顧客満足度で3年連続1位の理由」です。長崎ちゃんぽん専門店でおなじみの「リンガーハット」の戦略を取り上げます。同チェーンを運営する「株式会社リンガーハット」は、売上高469億円、営業利益23億円の大企業です(2019年2月期)。
業績が好調なのもさることながら、リンガーハットのさらに注目すべき点は日本生産性本部 サービス産業生産性協議会が実施している日本最大級の顧客満足度調査(飲食チェーン部門)において、3年連続で1位を獲得している点です。
多くのチェーン店がある中で、なぜリンガーハットが3年連続で1位に輝いているのか? 今回はその理由について研究していきます。
「安心・安全」に注力する戦略的な理由
リンガーハットの大きな特徴として「安心・安全」の取り組みを強化している点が挙げられます。メニューや公式Webサイトなどで大きく「国産化」「保存料・合成着色料不使用」「契約農家」を掲げています。例えば、野菜や麺・ギョーザに使用する小麦粉は100%国産となっています。野菜に関しては、契約農家と連携し、農薬や化学肥料を減らした契約栽培を行っています。公式Webサイトを確認すると「今月のキャベツ農家」として、契約農家さんが紹介されています。
では、なぜリンガーハットはここまで安心・安全への取り組みを進めているのか? そのヒントがリンガーハットの出店戦略に隠されています。14~19年における出店形態別の店舗増減数を見ていきます。
<リンガーハット出店形態別店舗数推移(2014年と2019年の比較)>
(1)ロードサイド店(郊外)278店舗⇒218店舗
(2)SC内フードコート 200店舗⇒384店舗
(3)ビルイン(都心型) 67店舗⇒84店舗
(1)~(3)合計 545店舗⇒686店舗
ショッピングセンターへの出店を強化
みなさんこの出店推移を見て何か気付きましたか? そうです。リンガーハットはショッピングセンター内にあるフードコートへの出店戦略を進めています。
ここでフードコートの客層に関して考えていきます。立地にもよりますが、一般的には週末はファミリー客、平日は子ども連れの主婦がメインターゲットとなります。フードコートで成功するためには、こうしたコアターゲット層に支持されなくてはなりません。
小さい子どもを連れた母親は特に「食の安全・安心」に対する意識が高いです。こうしたターゲットに対して「食の安心・安全」にしっかり取り組んでいることをWebサイトや店頭でPRしていく姿勢は、フードコートの出店戦略においても大きな力を発揮しています。
さらに同社ではこうした「安心・安全」以外にも、顧客に支持されるさまざまな取り組みを行っています。次は、その1つである「マルチターゲット戦略」について研究していきます。
リンガーハットのマルチターゲット戦略とは?
その1つが「麺増量無料サービス」です。主力商品である長崎ちゃんぽんに関しては、麺増量を無料としています。こうしたサービスは「お腹いっぱい食べたい!」という男性客から大きな支持を得ています。
こうした「満腹需要」に対応する一方で、「低糖質麺への変更」「にんにく不使用のギョーザ」といった女性客に配慮したメニューも用意しています。さらに「ちびっこセットメニュー」のラインアップ強化による子ども向けサービスも重視しています。このように、幅広い客層にアプローチをする戦略を、私は飲食店の「マルチターゲット戦略」と呼んでいます。こうした戦略が幅広い顧客層の顧客満足度を高める要因となっています。
さらに、健康志向が高まっていますが、メニューに野菜の使用量を掲載することで「野菜がたくさん食べられるお店」というポジションを獲得できている点は、他のラーメンチェーンには無い差別化要素となっています。
<リンガーハットのマルチターゲット戦略例>
麺増量無料=サラリーマンや学生層
国産原材料=OLやファミリー層
ちびっこセット=ファミリー層
野菜の量=健康志向層
低糖質麺=ダイエット層
顧客の声に向き合う姿勢
公式Webサイトでは、顧客からの意見に関する特設ページを設けています。ここでは質問例などを多数掲載しており、顧客の疑問や不満に真摯(しんし)に対応している姿が見て取れます。
公式Webサイト上で回答できる「お客さまアンケート」が設置されており、回答者全員に当たるクーポンを発行しています。さらに、回答者の中から毎月抽選で食事券をプレゼントする取り組みも行っています。アンケート入力画面にはレシートに記載されている番号などを入力する欄があり、意見を投稿した顧客が「どこの店舗で」「何を」「いつ購入したのか」という情報まで本部側で全て集計できるようになっています。
大手チェーンでは「お問合せ」というメールフォームだけを設置しており、こうしたクーポン発行等と連動したアンケートシステムを構築しているケースは意外と少ないのが実情です。つまり、リンガーハットでは「お客さまのご意見が自動的に集まる仕組み」が構築できているのです。
商品面を充実させるだけではなく、きめこまやかなサービスを提供し、顧客に真摯に向き合う企業姿勢が、総合的に多くの顧客の満足度を高めていると言えます。
ここで1つ疑問となるのが「なぜリンガーハットには、対抗しうる類似店や競合店がいないのか?」ということです。次は、他社が長崎ちゃんぽんのビジネスモデルをマネできない理由について研究していきます。
他社がリンガーハットのモデルをマネできない理由
長崎ちゃんぽんという分野で競合チェーンがいない大きな理由としては、やはり「リンガーハット」の持つ知名度の高さが挙げられます。1974年に現在のリンガーハットの原型となる「長崎ちゃんめん」を長崎市に開店して以来、70年代の外食産業急成長の波に乗って全国へ展開し、現在では694店舗の一大チェーン店となっています(19年8月時点)。しかしながら同社の強さを支えるのは知名度だけではありません。
実は「ちゃんぽん」というメニューは、他のラーメンと異なり参入障壁が高いのです。その理由としてまず挙げられるのは「多くの野菜を使用する」ということです。先にも述べたように、リンガーハットのちゃんぽんは多くの野菜を使用している点が顧客からの支持を得ていますが、野菜は
天候不順などの影響を受けやすく、年間を通じて安定した原料確保を行うのが難しいという背景があります。
こうした中で、リンガーハットは694店舗の全国チェーンという利点を生かして、日本全国の農家と契約を結び、天候不順などによる仕入れ価格高騰リスクを軽減しています。さらには契約農家との長年の取り組みの中で、通常より大きなサイズのキャベツを生産するなど、原材料の質とコストの両面で他チェーンがマネできないようなことも行っています。
調理工程にも特徴があります。一般的なラーメン店と異なり、ちゃんぽんには大きな中華鍋で具材を炒める工程があります。この工程がとても大変なのです。リンガーハットも2005年くらいまでは、オーダーが入ると大きな中華鍋で具材を炒めていました。しかし、これだと調理に力と技が必要で、味のバラツキも出やすくなります。そこで同社は店内に「ドラム式の鉄鍋」や「鍋スライドシステム」という独自のオペレーションシステムを導入し、調理工程の省人化と味の均一化を実現しています。
さらに、店舗だけではなく本部のセントラルキッチンにも独自に開発した大型設備を多数導入しています。これらは設備投資額の面からも他社が簡単にマネできるものではありません。
「安定的な原材料調達力」と「生産性の高いオペレーション」――この2つが他チェーンをよせつけない同社の強みとなっていると言えます。
このように、幅広い顧客層=マルチターゲットに対して、それぞれのニーズを満たす商品をしっかりと研究し、顧客の声を真摯に受け止めていく企業姿勢。そして、これらの商品企画をしっかりとしたクオリティーで提供する為のオペレーション構築や技術開発が、リンガーハットが3年連続で顧客満足度1位を獲得している理由と言えます。
(三ツ井創太郎)