拉致被害者家族「極めて残念」 首相の日朝連絡事務所「有効」に 横田拓也氏の発言全文

北朝鮮による拉致被害者の家族で結成する家族会と支援組織「救う会」の合同会議が16日、東京都内で開かれた。令和7年の運動方針について話し合う。会議の冒頭、横田めぐみさん(60)=拉致当時(13)=の弟で、家族会代表の拓也さん(56)があいさつし、石破茂首相の最近の言動に言及し、「極めて残念」と落胆する場面があった。
拓也さんはあいさつで、家族会と救う会が一貫して主張してきた「全拉致被害者の即時一括帰国」に触れ、「それには、家族会の親世代が健在なうちに実現させることをタイムリミットとしている」と説明した。「万が一、この要求がほごにされた場合、私たちは日本政府に対して強く抗議するとともに、北朝鮮への制裁強化と圧力堅持を求め、日朝国交正常化交渉に強い反対の姿勢を示す」と訴えた。
その上で、石破首相の持論である「日朝連絡事務所」の設置案に言及した。首相が1月31日の衆院予算委員会で、同案について「交渉するにあたり、連絡事務所があることはそれなりに有効だと思っている。しかし、北朝鮮の術中にはまるという反対意見があることもよく承知している。検証していかなければならない」などと答弁したこと巡り、「私たちが何度も反対の意思を示している連絡事務所の設置に前向きな見解を述べている。極めて残念な姿勢で、私たちの立場として改めてこの考え方は間違っていると、この場でも申し上げておく」と述べた。
拓也さんの発言全文は以下の通り。

本日は令和7年の家族会・救う会の活動方針を決めるため全国からお集まりいただきましてありがとうございます。また議連の秘書会の皆様方にも、本日もご一緒いただき、心からお礼申し上げます。
96歳、有本明弘さんは欠席
(合同会議に先立って)本日午前10時から家族会の定期総会を開催しました。7家族11人が集合しました。私の母、早紀江は今月4日で89歳を迎えました。この合同会議にも参加させていただいていますが、体調を押しての出席となります。
また有本恵子さんのお父さま、明弘さんは96歳です。有本のお父さんは上京される際は車椅子でのご移動です。ご無理されないことを祈るばかりです。本日は寒さが厳しいことを鑑みてご無理しないことを優先して欠席していることをご了承ください。家族会の親世代の高齢化は厳しい現実を突きつけられています。残された時間は長くありません。
家族会・救う会の運動方針は、全拉致被害者の一括帰国を北朝鮮に求め、それには家族会の親世代が健在なうちに家族や兄弟との再会を日本の地で実現させることをタイムリミットとしています。万が一、この要求がほごにされた場合、私たちは日本政府に対して強く抗議するとともに、北朝鮮への制裁強化と圧力堅持を求め、日朝国交正常化交渉に強い反対の姿勢を示します。
こうした事態になった場合に、全国の救う会の皆様方のお力添えを、今以上にお願いすることがあるかもしれません。世論を巻き込んで北朝鮮に対して圧力強化に軸足を置いた運動を求めることになります。この点、どうか引き続きのご支援をよろしくお願いします。
北朝鮮の時間稼ぎ
話は変わりますが、1月31日の衆院予算委員会で石破(茂)首相は日朝連絡事務所設置について「交渉するにあたり、連絡事務所があることはそれなりに有効だと思っている。しかし、北朝鮮の術中にはまるという反対意見があることもよく承知している。検証していかなければならない」と発言されました。
この発言の前半部分ですが、石破首相自身に、私たちが何度も反対の意思を示している連絡事務所の設置について、前向きな見解を述べているのです。極めて残念な姿勢ですし、私たちの立場として改めてこの考え方は間違っていると、この場でも申し上げておきます。
北朝鮮は厳重な監視国家です。拉致した日本人がいつ、どこでなにをしているかを把握しています。どこにいるか分からないといったの前提にたって最初から調査しましょう、というやり口は北朝鮮の時間稼ぎと幕引きのための工作です。こうした手口を日本政府が自ら乗ろうとしているのであれば、私たちは声を大にして、反対いたします。
毎年が「勝負の年」
私たち家族会は1997年に立ち上がり、毎年「勝負の年」の覚悟で声を上げ、炎天下で座り込みを行い、署名をお願いするために慣れない声を上げ、全国各地を駆け巡ってきました。それでも50年近く人権侵害問題である拉致事件は、5人の方が帰国できた以外に誰一人救出することができていません。
この環境下、1月20日、4年ぶりにトランプ氏が米大統領に返り咲きました。そのトランプ氏は、2018年、2019年に米朝首脳会談を行い、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と対面しています。交渉自体は、北朝鮮が核施設の廃棄について米国側にをついたことから決裂してしまいましたが、米朝の関係が再び動き出す可能性が大きいわけです。
実際にトランプ氏は、金氏と前向きな関係についてコメントしています。米朝関係が前進すれば、日朝関係が大きく前進することが考えられ、今年は例年以上に強い期待を持っています。先の日米首脳会談の場で、米側の拉致問題についての理解を得られたことはよかったと思っています。
今後重要になるのは、当事者である日本の強い意思と覚悟です。人権問題をトップ同士の決断によって解決することにより、日朝両国に明るい未来が描けることを石破首相の口から語っていただきたいと思います。
その際に先ほど申し上げたように、私たちが全く求めていない、連絡事務所や合同調査委員会の設置といった誤った選択、つまりハイレベル協議ではなく格下げされた、決定権や権限もない欺瞞の工作に加担することがないように、国民一人一人が厳しくチェックしていくことが重要です。
本日の合同会議において、こうした点も含めて、ご議論いただければと思います。
最後に、これまで家族会の副代表としてお務めいただいていた浜本(七郎)さんですが、本日欠席されています。ご本人から昨年の12月に申し出があり、副代表を降りられるとのご意向だったため、昨年12月付で副代表職から降りられていることを、この場をお借りしてご報告したいと思います。
本日はどうぞよろしくお願いします。