発生から3日目を迎えた28日も、岩手県大船渡市を襲った火の勢いは収まらず、数キロ離れた道路からも、いくつもの白煙が上がっているのが見えた。上空では、下に巨大なバケツをつるし、海の水をくんで火災現場を往復する自衛隊のヘリコプターの姿も確認できる。
「早く家に帰りたい」
日増しに避難指示は拡大され、避難所に身を寄せる住民の数は膨れあがる。「満杯です」。廊下にまでテントが並ぶ市文化会館の担当者の顔色もさえない。
「家がどうなっているのか分からない」。避難する同市三陸町綾里地区の今野伸二さん(61)も不安を隠せない。火災の一報は2月26日、職場で聞いた。すぐに、自宅に戻ろうとしたが、通行止めで自宅を「ひと目」確認することさえ、かなわなかった。「一日も早く帰りたい、それだけが一番の願いです」。そうつぶやいた。
避難した際には、自宅が無事でも、これだけ拡大した「被害」に、住民らの不安は尽きない。消防車のサイレンは鳴り止まず、微妙な風向きの変化にも住民らは敏感になっている。
津波と火災の二重ショック
避難所でテレビなどで映し出される「延焼の地図」を気にかける男性(68)がいた。妻の実家が綾里地区内にあり、盛岡から状況を確認するため、急いで駆け付けたという。「(妻の実家のある場所は)延焼の地図をみたら真っ赤だった。恐らくダメだろう」。男性はため息を漏らす。
14年前の東日本大震災で、妻は祖母を津波で亡くした。そして今回、両親の実家が火災に見舞われた。「妻のショックは計り知れない。両親は高齢で家の建て替えもできない。今後どうするのか…」。男性は途方に暮れた。
田浜 焼失5軒くらい清水地内に飛び火。避難所のホワイトボードには、火災の状況を知らせる情報が記されている。ただ、被害の全容など、詳細は分からない。「とにかく情報が欲しい」。住民らは口をそろえる。火は市の中心部にも迫る勢いで、避難所周辺にも焦げたようなにおいが立ちこめる。「そこまで来ているのか」。住民らの「不安」と「緊張」はピークに達している。(海野慎介)