鳥インフル「畜産県・千葉」を直撃、猛威振るう 3週間で15件連続発生「災害級」 深層リポート

今年に入り、高病原性鳥インフルエンザが千葉県北東部の養鶏場を直撃した。1月12日から約3週間の短期間で計15件も連続で発生して殺処分数は約332万羽に達し、鶏卵産出額で全国トップの県などは対応に追われた。現在は落ち着きを取り戻しているものの、毎シーズン襲来する鳥インフルに現場は戦々恐々。「見えない敵」への効果的な対策が求められている。
「周囲が次々と感染」
「鶏が通常より多く死んでいる」。1月11日、銚子市の養鶏農家から県家畜保健衛生所に一報が入った。翌日、今年1例目の鳥インフルの感染が確認されたが、これは「序章」に過ぎなかった。
その後、連日のように感染が相次いで確認された。銚子市に隣接する旭市、さらに匝瑳(そうさ)市に拡大した。今回で3回目の鳥インフル感染に見舞われた養鶏農家の男性は産経新聞の取材に、こう漏らす。「周囲の農家が次々と感染し、本当に怖いなと思っていた。万全の対策をしていたつもりだが、『まさか』という思いだ」
事態を重くみた県は対策会議を重ね、農林水産省も現地に対策本部を立ち上げた。殺処分のため、自衛隊に出動を求めた。それでも、短期間で15件もの連続発生に対し、殺処分を含めた防疫措置などを担う人員が足りない状況に陥った。
県職員延べ1万人のほか、銚子市など地元自治体から多くの職員が現場に向かった。熊谷俊人知事は「災害級の事態だ。通常業務を犠牲にして職員を動員した」と語った。
鶏卵価格に影響も
県内では過去にも鳥インフルの連続発生はあり、大流行した令和2年12月~3年3月の11例では約458万の鶏が殺処分された。だが今回の「約3週間で感染15件」は異例で、銚子市の担当課も「防疫作業をあちこちで同時並行的に展開する事態はかつてなかった」と明かす。
県北東部は大規模な養鶏場が集中する。政府の畜産関連統計によると、県全体の採卵鶏の飼育羽数(1412万9千羽、6年2月)、鶏卵産出額(504億円、5年)ともに全国最多。いわば「畜産県・千葉」を支える生産地での感染拡大、しかも県全体の採卵鶏の2割超が殺処分対象という事態に、暮らしへの影響も少なくない。
実際、鶏卵の卸売価格の指標となる「JA全農たまご」の東京地区の鶏卵相場(1キロ当たり、Mサイズ)は2月28日時点で320円と高止まりしている。年初から4割上昇し、過去最高の350円に迫る。千葉県を含めた各地で鳥インフルが猛威を振るい、感染拡大に伴う鶏の殺処分が影響しているとみられる。
「政府は原因究明を」
県は15件すべての殺処分と施設の消毒など防疫措置を完了。全15件の発生に伴い各養鶏場から半径3キロを「移動制限区域」に設定し、鶏や卵の持ち出しを禁止する対応を続けているが、新たな感染が確認されなければ3月中には制限区域を解除する予定だ。
ただ、県畜産課によると、過去の事例を含めて肝心の感染原因は特定できていない。渡り鳥がウイルスを持ち込んだのか、それともカラスなど他の経路なのか。「感染源がはっきりしておらず、毎年、びくびくしながら流行期の冬を迎えなければいけない。政府は原因究明と感染防止対策に予算を投じてほしい」。銚子市の越川信一市長は養鶏関係者の切実な声を代弁する。

高病原性鳥インフルエンザ A型インフルエンザウイルスが引き起こす鳥の病気。冬に流行しやすい。渡り鳥がウイルスを持ち込むケースが多いとされるが、特定できていない。発生すると、感染拡大を防ぐため鶏の殺処分が必要となる。今季は1月に各地で感染が拡大し、2月12日までに千葉や愛知など14道県に広がった。令和4年10月~5年4月は26道県で発生し、過去最多の計約1771万羽が殺処分の対象となった。
記者の独り言 千葉県内の鳥インフルエンザ流行で養鶏農家の生の声を聞いた。「よその農家に感染したら大変だ」。互いに経営を直撃する伝染病の苦しみを理解しているからだ。養鶏農家は一定の補償があるが、事業再開まで最低でも半年ほどかかり、農家への飼料納入や鶏卵運送など関連業者に手当てはない。感染経路の特定はもちろんだが、鶏卵業界全体を支援する取り組みが欠かせない(岡田浩明)