「日本三大ドヤ街」の一つ、大阪市西成区の釜ケ崎。YouTubeなどで「治安が悪い」イメージがふりまかれる一方、近年は違法露店や覚醒剤の密売も激減した。
その背景には、2013年にスタートした大阪市による西成特区構想がある。それから10年余りを経て、何が変わったのか。新著『西成DEEPインサイド』から、一部を抜粋・編集して紹介する。
橋下元市長が始めた「えこひいき政策」
「日本が抱える問題の縮図」とも評される釜ケ崎。2013年に大阪市による西成特区構想がスタートし、行政と警察が不法投棄の防止や薬物事件の摘発、通学路の安全対策に取り組んできた。どう変わったのか。
【写真】日中に並んでいた露店が消えた現在の大阪市西成区・釜ケ崎(2023年7月、西成区役所提供)
釜ケ崎は西成区内にある0.62平方キロメートルの地域で、区全体の1割弱。行政用語で「あいりん地域」とも呼ばれる。
橋下徹・大阪市長(当時)は2012年、人や予算を重点的に投入して活性化とイメージアップを目指す意向を示し、「人と金を使って、えこひいき政策をする」と発言。翌年、釜ケ崎を中心とした特区構想が始まった。
同じ西成区でも地域によって受け止め方に差があった。元区幹部は「西成イコールあいりんではないのに、区全体のイメージが悪くなっていると考える区民も少なくない。あいりんに重点的に予算を投じることはおかしいという声にも配慮する必要があった」と振り返る。
釜ケ崎の公園にあふれていた不法投棄のごみは目立たなくなった。車道に放置された自転車もめっきり減った。かつては「シャブを買うならカマ」とも言われたが、主要な交差点に立っていた密売人も見かけなくなった。あちこちに防犯カメラも設置された。
大阪府警によると、釜ケ崎が絡んだ違法薬物事件で逮捕・書類送検された容疑者は2013年に362人だったが、2023年は37人に激減。摘発の効果に加え、SNSなどを使った密売が中心になったことが背景にあるとみられる。
通学路の安全対策として、路上の違法露店の取り締まりも強化された。医師の処方が必要な睡眠導入剤や向精神薬、わいせつな裏DVDなどを売る露店が多かった。
生活保護の受給率は4割超え
2009年ごろまでは多いときで約300店が並んだが、再三の摘発で今は多いときで約20店に減少。2024年6月には無許可で向精神薬を売ろうとしていたとして男が逮捕されるなど、いまも摘発が相次いでいる。