はだか祭に「女性も参加したい」女人禁制を解くキッカケ作った“お祭り女”たち 神社側には継承への危機感

愛知県稲沢市の国府宮(こうのみや)神社で開かれる「国府宮はだか祭」では、2024年から一部行事で女性団体の参加が解禁された。2025年も、板金工やXジェンダーなど多様な背景を持つ人が参加した。 多くの祭りが“女人禁制”とされてきたが、コロナ禍での変化や担い手不足など時代の変化とともに、新たな形へと変わっている。
■2024年から解禁 はだか祭の“女性参加” 25年は7団体から約240人
下帯姿の裸男たちが激しくもみ合う、愛知県稲沢市の『国府宮はだか祭』。
神男(しんおとこ)を触ると厄が落とせるという「天下の奇祭」だ。 荒々しい“男だけ”の祭りとして続いてきたが、2024年からは、一部の行事で女性団体の参加が解禁となった。
女性たちが参加したのは、“もみ合い”の前に行われる「笹の奉納」の神事だ。 2025年は、少なくとも7団体およそ240人が参加し、願いを書いた布を結び付けた「なおい笹」を奉納した。
時代とともに変わる「祭りと社会」。
■「次に生まれるなら男に生まれて…」 “女性解禁”のキッカケ作った女性の思い
愛知県一宮市のデイサービス施設「葉栗の郷(はぐりのさと)」で働く玉腰厚子(たまこし・あつこ 57)さんは、はだか祭の“女性解禁”のキッカケとなった1人だ。
はだか祭のおよそ2周間前の1月30日、玉腰さんは、祭りに参加できない利用者にも雰囲気を味わってもらおうと、笹奉納の体験会を開いた。 玉腰厚子さん: 「装束を着てきました。人生、もし次に生まれるんだったら、男に生まれて、はだか男のもみ合いに入ってみたいな」 施設を利用する男性: 「30年も前の話だけど(はだか祭に)一回出たことある。びっくりこいて圧倒されたね」 施設を利用する女性: 「うらやましいなと思って。もうちょっと若ければ、(祭りに参加する)会員になれたのに」
東京都墨田区生まれで、全国の祭りに出かける“お祭り女”の玉腰さんは、国府宮神社に女性の参加を申し込んだチーム「縁友会(えんゆうかい)」の隊長だ。 玉腰厚子さん: 「(チームの)一宮市の女性の方がずっと祭りが好きで、『女性も参加したい』から始まったという。色んなご縁から、『夢があるならば、やったらいいよ』と」
玉腰さんの夫・辰夫さんは、1996年の祭りで「神男」を務めている。 玉腰さんの夫・辰夫さん: 「平成8年に神男をやらせていただきました」 玉腰さんは、神男を務めた後もOBとして祭りの手伝いに行く辰夫さんのフォローを毎年続けてきた。
そして、玉腰さんたち女性のチーム「縁友会」は2023年、神社と神男OBの会に参加の希望を伝え、話し合いを始めた。 祭りに女性が参加してはいけない理由について、国府宮神社の角田権禰宜は「元々“女性が来てはダメ”と発表していたわけではない」と話す。
国府宮神社の角田成人権禰宜: 「神社側としましては元々、『女性の方は来てはダメ』と発表していたわけではないんです。“荒々しく危険な祭り”ということが定着しててですね。逆に参拝される方々、女性やお子さんが、『危ないから、あまり近寄るもんじゃないよ』というのが一般的に広がってたということじゃないかなと思うんです」
■時代とともに変わる「伝統」は各地で…はだか祭もコロナ禍を機に“女性参加”に
「はだか祭」の始まりは、奈良時代の767年。称徳(しょうとく)天皇が、疫病退散の祈祷を言い渡したのが始まりとされている。当初は、旅人やよその村の人を強引に捕まえて3日ほど閉じ込めたという、なかなか過酷な祭りだ。
200年ほど前の江戸後期から、今のようなスタイルになった。激しいもみ合いで、衣類が首に巻きつく恐れなどから服を脱ぐようになったとも言われ、裸の男たちの荒々しい祭りというイメージが定着していった。
今は全身を剃り上げ「生まれたままの姿」と言われる神男だが、ひげを生やした映像も残っていて、「伝統」の形も少しずつ変わってきたことが伺える。 鉄鉾会(神男OBの会)の大野善光会長: 「(昔は)『女性の方は絶対行っちゃいけない』というのがあった。うちの母親は、はだか祭を見たことないです。お祭り自体が、そういう時が来たんではなかろうかと思うんです」
出産や生理などの血を「けがれ」とする考えなどを背景に、「女人禁制」は全国の祭りで見られる。 しかし、昭和・平成以降、少子高齢化による担い手不足などを受け、東海地方では、愛知県の奥三河で開かれる「花祭」や岐阜県高山市の「高山祭」など、女性にも門戸を開く祭りが増えてきた。
「はだか祭」も、新型コロナで大幅な縮小を余儀なくされた危機感もあって、もみあいの前の「なおい笹」奉納に限り、女性の参加を認めることになった。 国府宮神社の角田成人権禰宜: 「全国で色んなお祭りが、寂しいことですけど、継承していくのが難しい状況にはなっているんですが、女性に限らず、お子さんにも沢山出ていただければ、今後、途絶えることなくお祭りが続いていくんじゃないか」
この決断に、一部には反対の声も上がった。 鉄鉾会の津田敏樹さん: 「やっぱり男性の祭りだという固定概念がありますので、賛否、本当にあります」 参拝者の女性: 「私はあまり賛成じゃない。低くみられる。女性が出ると」 別の参拝者の女性: 「なおい布を頂いたけど、やっぱり裸男にもらいたいかな」
■Xジェンダーにトラック運転手…願いを託され祭りへ
名古屋などで毎年夏に開かれる踊りの祭典「にっぽんど真ん中祭り(どまつり)」にも参加する、地元・稲沢市のダンスチーム「SPICE!(スパイス)」も、2024年からはだか祭に参加している。
代表は、服部みどりさん(71)だ。 SPICE!代表の服部みどりさん: 「(お爺ちゃんに)『女が外に出て行くなんて』と言われて。ジャズダンスを習いに行ったんですけど、『子供を置いて女が行くなんてとんでもない』と怒られて」 岐阜県岐阜市生まれの服部さんは、20歳の時に稲沢市の夫の実家に嫁いだ。 育児や介護に追われた生活の反動のように「どまつり」のチームの活動に打ち込みんだが、地元の祭りに参加できると聞き、真っ先に手を上げた。 SPICE!代表の服部みどりさん: 「私言ってますもん。『稲沢大好き スパイス!です』って。やっぱり地元が盛り上がることはやりたいと思う。男性でも女性でもない方もいらっしゃるし、それぞれ認められる世の中に変化する時だったから」
はだか祭に参加するスパイス!のメンバーたちの職業は、様々だ。 メンバーの鵜飼和代(うかい・かずよ 51)さんは「板金工」。10年前までは、建設現場に女性はほとんどいなかったと言います。 SPICE!メンバーの鵜飼和代さん: 「女の人が現場に増えました。鉄骨の上でやっている女の子を見た時ビックリしました。『怖くない?』って。楽しいですね。外で動くのは楽しい」 受験を控えた長女ら家族から、神社に納める願いを書いた布を預かった。
住田真琴(すみだ・まこと 52)さんは運送会社勤務に勤務していて、トラックやフォークリフトの運転もお手のものだ。
同僚らから、「商売繁盛」「交通安全」などの願いが書かれた布を受け取った。その数は20枚以上になったという。 これまで男性の同僚に託していた願いを、今回は神様に届ける番だ。 SPICE!メンバーの住田真琴さん: 「今までは自分が裸男に託すものを、逆にドライバーの皆から託されて」
さらに、こんなメンバーもいる。来日して10年、稲沢市に住むフランス人のジュリ・ボゥさんだ。 SPICE!メンバーのジュリ・ボゥさん: 「私は女の体で生まれたんですけど、実はノンバイナリー、Xジェンダー。遺伝子のせいで参加できないのがすごく辛かった」
心は女でも男でもないという「Xジェンダー」で、SPICE!から、祭りに出られることになった。
SPICE!メンバーのジュリ・ボゥさん: 「私のお父さんがフランスで、心臓がんで苦しんでいるところです。ちょうど昨日治療を止めると決めた。苦しまずにいけますように、虹を渡れますようにという、奉納しようと思っています」
■町中に響いた女性たちの声…「どんどん変化があって、新しい時代に向かっていく」
2025年2月10日のはだか祭当日、SPICE!のメンバーは、もみ合いの前に行われる「笹の奉納」に参加した。 大切な人たちの願いを結んだ「なおい笹」を持ち、メンバー40人で、心を1つにして、拝殿を目指す。
「ワッショイ、ワッショイ」と、元気な声が町中に響く。 持っていると難を逃れられるという「なおい布(ぎれ)」を配りながら、参道を進んだ。
冷たい手桶の水の洗礼を浴びる中、ジュリさんは、自ら水を被った。
出発からおよそ1時間、無事に奉納することが出来た。 メンバー: 「ばんざーい、ばんざーい」 SPICE!メンバーのジュリ・ボゥさん: 「サイコー!3月またフランスに行くことにした。会いたくて。心を100%、200%込めて、でら込めた!」
玉腰さん率いる縁友会は、女性たちを参加させてくれたお礼と「酒樽」を奉納した。 玉腰厚子さん: 「気持ちよく、みんなの願いを預かって届けることが出来ました」 参拝者の女性: 「すごい派手ですね」 参拝者の男性: 「華やかさがありますよね、やっぱり。魅力が増えますよ」
SPICE!代表の服部みどりさん: 「水も滴るいい女。もっともっと賑やかに、国府宮のはだか祭が盛大になっていくといなと思います。どんどん変化があって新しい時代に向かっていく。はだか祭に、私たちも一役買えたかなと思って、続くといいなと思ってます」 時代を映す、2025年の「はだか祭」が終わった。
2025年2月13日放送