遺品整理人として、小島美羽さんが孤独死の現場をミニチュアに再現して訴えたいこととは(撮影:尾形文繁)
リアルすぎる孤独死現場の模型。2世帯住宅なのに、発見が1週間後だったというケースもある。孤独死は誰にでも起こりうる、と著者は呼びかける。実際の写真だと生々しく、故人をさらし者にしてしまう。遺族にも悲しい記憶を思い起こさせる……。
そこで思いついたのが、自身初挑戦のミニチュアによる再現だった。『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』を書いた遺品整理人の小島美羽氏に詳しく聞いた。
――お風呂で孤独死された現場の様子が凄惨でした。熱い湯船、追いだき・保温機能で腐敗が早く、遺体が溶けてしまうって、目を覆う光景ですよね。壁1枚隔てた部屋で実際に起こりうると強調したくて、あそこまで作り込んだ?
そういう意図もあります。でも、まずはヒートショックへの危機感を高めてもらいたかった。冬場のヒートショックで、お風呂で溺死する方がすごく多い。ヒートショックは予防さえしていれば、亡くならずに済んだかもしれない。脱衣所にヒーターを置くとか、前もって浴室をシャワーで温めておくとか、湯温は40度以上にしないとか、急激な温度差を避けるだけで、リスクはだいぶ下がります。
――多くの孤独死現場の中から作られた模型は9点。それぞれテーマを込めた選択だったんですか?
例えばゴミ屋敷。多くの方がひとごとだと思っている。でもいじめ、過労、解雇、失恋、離婚、うつ、きっかけはいろいろです。今は大丈夫でも、何かの精神的ダメージでいつゴミ屋敷になるかわからない。
実際、私が依頼された中では弁護士さん、看護師さん、接客業の方が多い。外でエネルギー使い果たして、家では「何もしたくない」とすべて後回しになったのかもしれない。何かが起こったとき、それまでの自分でいられるか保証はないわけです。ゴミ屋敷に必ずあるのが尿の入ったペットボトル。トイレが使える状況でもです。面倒くさいというか、もう動きたくないと思っていたのでしょうね。
――そもそもですが、この仕事に就いたきっかけは何ですか?
小島美羽(こじま みゆ)/1992年生まれ。高校卒業後、郵便局に勤務。その後複数の職業を経て、2014年遺品整理クリーンサービスのToDo-Companyに入社、遺品整理やゴミ屋敷の清掃、孤独死現場の特殊清掃に従事。2016年から独学で現場を再現したミニチュアの制作開始(撮影:尾形文繁)
父の突然死でした。最後の思い出は殴り合いのけんか。父は大酒飲みで、飲んでないときはいい人なんだけど、悪い部分もたくさん経験してきて本当に嫌いでした。
両親が別居したばかりで、母が用事で出向いたとき、倒れている父を偶然発見した。1日遅れていたら孤独死だったんです。生前は嫌いな人でも、やっぱり失ってから気づく愚かさというか、失って初めて大切だったものに気づいた。
数年後、遺品整理の仕事を知り、ネットでいろいろ調べました。悪徳業者につかまって目の前で思い出の品を壊されたとか、ひどい言葉を投げられたとか、高額請求されたとか、嫌な思いをした依頼人の書き込みがあったんです。
家族を亡くした側からすれば、これは許せない。だったら私が遺品整理や特殊清掃をやろうと。悪は潰したいし、残された人の悲しみに寄り添って心の助けというか、前に一歩進む手伝いができればと。
――驚いたのは、片付け中の現場の8割に自称“友人”が来ること。
はい、結構な確率で。都営団地で清掃してると「何号室?」って普通に聞かれる。個人情報なのでごまかしても、すぐ情報が回って見にくるんです。使えそうな物があったら勝手に持っていったり、持ち去ろうとしているのを止めたり。「何かお宝あった?」って聞いてくる人もいます。あさる気満々で、私たちの到着前から待機していることもある。人間って亡くなったら物やお金だけになってしまうのかな、と思ったりしました。
フィギュアオタクの友人が勝手に上がり込んできたこともありました。それはもう早い。止める間もなく、「スゲー!」とか言って換金できる物だけ持ち去った。仲間の死を惜しむというふうじゃない。
――遺族の胸の内も複雑ですね。
ただ、故人とは縁を切っていた遺族の方が、「何で私たちが整理しないといけないの?」といら立って不満をぶつけてくることもある。
私自身がうちの父で苦労したのでわからなくないんです。「何があったんですか」と聞くと、借金して家族を捨てて逃げたとか。同情というか共感しますね。悪い思い出も話して発散することでモヤモヤが薄まればいいし、少しでも故人を送り出す気持ちになってもらえればと思って話を聞きます。
――普段の顔とは違う、裏の素顔が出てしまう場なのかもしれない。
生前はうまくやってても、亡くなった途端に豹変する人もいます。「あいつ、1銭も残さないで」と。複雑ですよね、親子も結局はお金なのかって。この仕事でつらいのは汚物でも激臭でも虫でもなく、人の裏の顔が垣間見える瞬間です。最初は情熱1本で「やってやるぞ!」と意気込んでいたけど、世の中の厳しさやドライさ、物事が冷静に見えるようになりました。
――小島さんご自身は、孤独死を否定してはいない?
孤独死自体は実際には誰にでも起こりうることで、悪いことじゃない。そもそも孤独死をなくすのは不可能。次の瞬間亡くなるなんて、誰も予測はできないから。問題は発見されるまでの時間だと思います。長い間発見されないと、腐敗が進んでご遺族がお葬式で故人の顔を見られない。
孤独死の場合、とくに残された側は現実を直視できず、踏ん切りがつかないまま何年も引きずる方が多い。認めたくないというか。
そう考えると、できる限り早くご遺体がきれいなうちに発見されるに越したことはない。万が一に備え、最近顔見ないねと、お仲間が様子を見に来てくれるよう外での付き合いを増やすとか、お弁当の宅配を契約する、在宅医療を頼むなど、早く発見してもらえる方法を考えておくといいと思います。
――遺品整理も今年で5年ですね。
今も勉強、勉強です。工事現場のように作業工程が決まってるわけじゃない。1件1件違うから、こういう場合はこうしたほうがいいとか、その都度対応を変えて、新たな発見をしていかないと。
臭いや虫で近所に迷惑がかからないよう、部屋は閉め切ってエアコンを洗浄し、キッチンを磨き上げ、徹底的にきれいにする。その後、必ず玄関先に線香と仏花を供えます。きれいに部屋を明け渡すため、たった5分だけお供えして撤去する。そのために20分走って花を買いに行ったり。故人に安心してあの世に旅立ってほしいと思うので。