受刑者の出産・子育てを支援 法務省モデル事業で初の子ども誕生

法務省が2024年度から妊娠中の女性受刑者の出産・育児を支援するモデル事業を始め、事業を利用した受刑者から初めて子どもが誕生したことが法務省関係者への取材で判明した。「塀の外」と遜色ない環境で母子が一緒に暮らすことで、子の健全な成長と母親の円滑な社会復帰を図ることが狙いだ。
刑事施設内での子の養育を巡っては、イギリスやフィンランドなどで、母親と暮らすことが「子の最善の利益」だとして認められている。一方、日本では生まれてすぐに親族や乳児院などに引き取られているのが実情で、法務省は実績を踏まえて事業の継続や拡大の必要性を判断する方針。
刑事収容施設法は、女性受刑者は子どもが最長1歳6カ月になるまで施設内で一緒に過ごせると定めている。ただ、法務省が統計を取り始めた11年以降、育児実績は3例のみ。期間は最長で12日間にとどまる。育児を望まない受刑者も少なくない上に、刑務所側のサポート態勢も十分でないことが背景にあるという。
モデル事業では、立川拘置所(東京都)に育児室を整備。近隣の医療機関や東京都助産師会の協力を得て、受刑者が外部の病院で出産後に助産師のサポートを受けながら子どもと暮らせる環境を整えた。医療費など出産・育児に必要な費用は国が負担する。
対象は全国の刑事施設に収容されている妊娠中の受刑者。事業の利用を希望した場合、途中で育児を投げ出さないかを施設側が見極める。24年度は1人の利用が認められ、立川拘置所に移って出産し、簡易な刑務作業や社会復帰のプログラムを受けながら子どもと暮らしている。
法律に従い1歳6カ月を迎えると子どもは親族など外部に預けられるが、母親が出所後に再び養育できるよう支援する。
欧州の女子刑務所に詳しい矢野恵美・琉球大法科大学院教授(刑事法)は「母親が罪を犯しても子どもに罪はなく、モデル事業は欧州と同様に子どもの権利を第一に考えている。子どもと過ごすことは母親の更生にもつながり、拘禁刑の導入で刑罰の見直しを進めている矯正行政の流れに沿ったものだ」と評価する。【飯田憲】