石破首相がコメの安定供給に向けた関係閣僚会議を発足させたのは、「令和の米騒動」を機に長年の持論であるコメ政策の転換を図るためだ。農相経験者ながら自民党農林族の主流派とは一線を画しており、改革に前向きな小泉農相とタッグを組んで議論を主導する構えだ。(太田晶久、鷹尾洋樹)
「主食であるコメの供給に対する国民の不安が高まっている。安定的な供給を実現することが必要だ」
首相は5日の閣僚会議でこう述べ、生産量を拡大する重要性を強調した。
首相は2008~09年に麻生内閣の農相を務めた。事実上の減反にあたる生産調整の見直しを声高に訴えたが、米価下落を懸念する自民農林族の反発を招き、頓挫した経緯があり、周囲に「史上最低の農相と言われた」と自嘲気味に語る。
国民にコメ価格高騰への不満が広がる中、今回は改革に再挑戦する絶好の機会ととらえている。首相は農相時代の09年9月に「石破レポート」と呼ばれる論文をまとめており、生産調整を「担い手の自由な経営発展を阻害している」と批判し、見直しの必要性を訴えていた。
論文では、生産調整を巡り、〈1〉強化〈2〉維持〈3〉緩和〈4〉廃止――の四つに分けて米価や生産量などの予測を行った。このうち、「緩和」は米価が下がり大規模農家への集約が進むなどして水田農業の構造改革が加速するとし、最適な選択肢だと位置付けた。米価が下落した場合、農家の収入を穴埋めする制度を導入することも明記している。
首相は周囲に、この論文での主張を重視するとした上で、「16年たった今、何が課題かを閣僚会議で改めて分析したい」と意欲を示す。党内には、備蓄米の随意契約による売り渡しを進めた小泉氏との連携に期待する向きもある。
一方、警戒を強めているのが自民農林族だ。重鎮の森山幹事長は5日、群馬県での会合で「(コメが)安くなければいけないという理屈だけでは食料安全保障は成り立たない」と述べ、拙速な米価引き下げにクギを刺した格好だ。
4日に党本部で行われた農林部会幹部らの会合では、備蓄米の随意契約による売り渡しを巡り「我々に諮るべきだ」との批判も出た。「失敗した場合、官邸が責任を負うだけだ」(中堅)と突き放す声も上がる。
首相側も党内の反発を見据えつつ、小泉氏の突破力を生かして改革を進めたい考えだ。首相周辺は「閣僚会議での抜本的な改革論議は、参院選後になるだろう」との見通しを語っている。
備蓄米販売店 斉藤氏が視察
公明党の斉藤代表は5日、東京都大田区のディスカウント店「MEGAドン・キホーテ大森山王店」を訪れ、政府備蓄米の販売状況を視察した。斉藤氏は視察後、「減反政策を見直していく必要がある」と述べ、事実上の減反にあたる生産調整の見直しを改めて求めた。
同店では、備蓄米が5キロ・グラムあたり1980円(税抜き)で販売されている。斉藤氏は店側から売れ行きや評判を聞き取った後、「日本のコメは大変高品質で海外でも評価が高い。(余った時は)輸出に使えるコメにしていく工夫も必要になる」と記者団に語った。