「精神的暴力つらかった」 不自由展出品の美術家、再開への苦悩語る

国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が8日午後から再開されることになり、芸術祭は約2カ月ぶりに開幕当初の姿で再始動することになった。不自由展関係者や他の芸術祭参加作家は再開を思い思いに受け止めた。文化庁の芸術祭への補助金不交付決定を巡る国会論戦も7日スタートし、会期末の14日まで残り1週間、芸術祭の動向が注目される。
「開幕3日で中止になるとともに、政治家による介入発言が相次いだ。イジメと呼びたくなる精神的暴力を感じて非常につらかった」。不自由展に出展した美術家の中垣克久さん(75)はこの2カ月の思いを語った。出品作は外側に日本国旗や憲法9条を尊重する言葉などを張ったドーム型の立体作品で「信念に基づき制作しているのに、なぜこんな仕打ちに遭うのか。再開を『よかったよかった』という気持ちになれない」と話す。
少女像と並び、抗議や批判が相次いだ昭和天皇をモチーフにした版画、映像作品を出展した美術家の大浦信行さん(70)は「再開は喜ばしいが、さまざまな課題が解決されたわけではない。美術館は今後一層、政治色や社会性が強い企画展を実現できにくくなり、作家も無意識に自粛する方向へ向かうのではないか」と話した。自らの作品には「先入観にとらわれず、作品と対面してほしい。天皇制を批判する作品でないと分かってもらえるだろう」と話した。
同じく不自由展に出展している小泉明郎さんは「あと1週間、展示をいかに守っていけるかに未来がかかっている。緊張感を持って最後の1週間に臨みたい」とコメントした。
不自由展の中止後、芸術祭では抗議や連帯の意思を示すため国内外10組以上の作家が出展を中止・変更していたが、8日の再開で全作家が復帰する。休館日だった7日、芸術祭のキュレーター(展示企画者)と関係作家が連絡を取り合い、愛知芸術文化センターや名古屋市美術館、豊田市美術館の学芸員らが展示作品を元通りに直した。
芸術祭実行委員会によると、8日午前9時半から開館する名古屋市美術館では、メキシコの女性作家モニカ・メイヤーさんによる参加型作品が原状回復される。来場者に性差別などの体験を紙に書いてもらい、掲出していたが、中止に抗議して用紙を破いて床にばらまき、来場者が記入できなくなっていた。
なお再開反対の声も
一方、脅迫や抗議が相次いで中止に追い込まれた経緯などから、再開に反対する声も起きている。自民党愛知県議団はこの日、「再開に賛同することは困難」などと大村秀章知事に申し入れていたことを明らかにした。県内の学校や保育園を対象とする脅迫メールがあったことなどを挙げ、「県民の安全安心に対する懸念が十分に払拭(ふっしょく)されたとは言い難い」と懸念を示した。
大村知事は7日の緊急記者会見で、再開しなければ「『気に入らないから』と脅せばイベントをつぶせる悪い例になる。今後のためにも再開したかった」と強調した。芸術祭の芸術監督を務めるジャーナリストの津田大介氏は記者会見で「トリエンナーレが自分が見せたかった完全な形で再開するのは喜ばしい」とほっとした表情で述べた。【山田泰生、永田晶子、竹田直人、黒尾透】