「官だけでは限界」 災害備え、高まる民間の防災意識 企業間協定や官民連携の動き強化も

大規模災害に備え、民間の防災意識が高まり、地域とのつながりを強く持つ民間企業のなかには、そのパイプやノウハウを防災にも役立てようと企業間で協定を結ぶ動きも出てきた。昨年元日の能登半島地震では物流業者による輸送支援や飲食店組合による炊き出しなど、民間の力による被災地支援も実施。民間の存在意義が増すなか、行政との連携も進み、平時から災害を見据えた対策が全国で進んでいる。
「『民』の強みはノウハウを蓄積し、多くの人を横断的に巻き込めること。この強みを生かし一人でも多くの方が命を落とさない社会の実現につなげたい」
6月下旬、清掃サービス大手「ダスキン」(大阪府吹田市)と連携協定を結んだ「減災ソリューションズ」(東京)の加古嘉信社長は力強く語った。防災の啓発に取り組む減災ソリューションズは昨年、倒壊した建物を再現した移動式の訓練装置「レスキュー・トレーニング・モジュール」を完成、建物の下の狭い空間に挟まれた人を救助する訓練などで使われてきた。
今回の協定により、全国に広がるダスキンのネットワークを生かした訓練装置のレンタルサービスが開始される。レンタルは各自治体のほか、一般市民も対象としているといい、ダスキンの大久保裕行社長は「実際に体験することでいざというときの備えにつながってほしい」と話す。
30年以内に80%程度の確率で発生するとされている南海トラフ地震など、大規模災害への備えは喫緊の課題だ。災害時にいかに迅速で効果的な対応をとれるか。民間の間だけでなく自治体と民間による官民連携の動きも進む。
内閣官房によると、災害時に支援物資を避難所へ輸送するなどの協定を広島県東広島市と福山通運が締結。また、災害時の生活拠点確保のため、埼玉県越谷市は、一般社団法人レンタルキャンピングカー協会が保有するキャンピングカーの優先提供に関する協定を結ぶなどしている。
さらに政府は防災庁設置を前に行われた会議で、「防災官民連携ネットワーク(仮)」の立ち上げを決定。NPOや民間が持つ人的・物的資源を把握し、協力体制を構築することで、平時から官民の連携体制を整え、災害時の円滑な活動に向けた素地を作る狙いだ。
こうした官民連携の動きについて日本大学理工学部の宮里直也教授(建築構造学)は、「官だけにできることには限界がある。そこを民間と連動し補うことで国全体の防災の底上げが図れる」と強調する。