福岡地裁小倉支部は6月25日、部下の女性警察官に対し、服の内側に手を入れて直接胸をもむなどのわいせつ行為や太ももをさするなどの暴行を繰り返した37歳の元警部補の男に懲役2年・執行猶予5年の判決を言い渡した。
上司という立場を利用した卑劣な犯行
判決によると、37歳の元警部補の男は2023年5月から6月にかけての約1か月間に、部下の女性警察官に対し、車内や暗がりなど人目につかない場所で計3回のわいせつ行為と2回の暴行に及びました。
部下の女性警察官が「嫌です」と口に出したり、被告を払いのけたりして拒絶の意思を示していたにもかかわらず、37歳の元警部補の男は自身が上司という立場にあることから「少しくらいであれば許されるだろう」などと考え、勤務中に犯行に及んだと認定しています。
裁判所は「15年以上の勤務経験を有する警察官として周囲に範を示すべきであったのに、あろうことか自らの立場や状況に乗じて被害者へのわいせつ行為等を繰り返したものであって、被告人の意思決定は強い非難に値する」と厳しく指摘しました。
部下の女性警察官に対しわずか1か月足らずで5回の犯行
論告求刑で検察側は「被告人は、精一杯の抵抗を示す被害者に対し、何のためらいもなく、時に笑いながら、被害者を弄ぶかのようにして執拗に本件各犯行に及んでおり、これら一連の犯行は、被害者の性的尊厳を深く傷つけたことはもちろんのこと、上司として尊敬し、信頼していた被害者の心情をも踏みにじる行為であり、卑劣であって、相当に悪質である」と主張しました。
判決で福岡地裁小倉支部は、37歳の元警部補の男によるわいせつ行為の態様は部下の女性警察官の耳をなめる、キスする、着衣の中に手を差し入れて直接胸をもむなど「総じて被害者の性的自由及び羞恥心を大きく害する悪質なもの」、また、暴行については背後から抱きつく、大腿部をさするという比較的軽度の力の行使であったものの「望まぬ身体的接触を強いたものであって、看過できない」と指摘しました。
逃げ場のない部下の女性警察官が受けた深い傷
論告求刑と判決では、被害者の置かれた状況と心情についても言及されました。
論告求刑で検察側は「信頼していた上司に裏切られた悔しさ、恥ずかしさ、嫌悪感に苦しめられ、被告人との職務に従事するたびに再被害をおそれて強い緊張を強いられ、警察官を続ける必要性まで疑問に感じるほど悩み、追い詰められていた」と指摘し、被害者の心情を代弁。
判決では「勤務中に被害に遭ったために職務を放棄して逃げ出すこともできず、また、指導員である被告人の機嫌を損ねてはならないとの思いから強く抵抗することもできない中、被害を耐え忍ぶほかなかった」
と認定された。
「実刑をもって臨むことも考えられる。しかしながら・・・」
判決で福岡地裁小倉支部は「刑事責任は重く実刑をもって臨むことも考えられる」としたうえで、
・37歳の元警部補の男が事実を認め謝罪している
・被害弁償として150万円を支払った
・妻が更生支援を約束している・養うべき子がいる
・前科前歴がない
などの事情を考慮し、
懲役2年・執行猶予5年の判決(求刑:懲役2年)を言い渡しました。