新型コロナウイルスワクチンなどの予防接種の記録について、厚生労働省は2日、現行の接種後5年間の保存期間を「死亡後5年間」まで大幅に延長する方針を決めた。個人や自治体が生涯にわたって記録を確認できるようになる。厚生科学審議会の専門部会に示し、了承された。2007年に予防接種法の施行規則に保存期間が明記されてから、初めてのルール変更となる。
予防接種のうち、法律に基づいて市区町村が実施する「定期接種」(風疹や麻疹、B型肝炎など17疾病が対象)や緊急時の「特例臨時接種」(24年3月までの新型コロナワクチン)の記録は市区町村が「予防接種台帳」で保存している。住所や氏名、生年月日、接種日、ワクチンの種類などについて、接種から5年間の保存が義務付けられている。
厚労省は24年3月、部会に保存期間を延長する案を示し、了承されていた。同年12月には、子宮頸(けい)がんを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについて、全国の少なくとも12市区が接種済みの女性に不要な接種案内を郵送したことで、規定回数を超えて打つ「過剰接種」につながっていたことが毎日新聞の調査で判明。ワクチンの記録保存の課題が指摘されていた。
この日の部会では保存の延長について、疾病を予防するワクチンの役割が乳幼児から高齢者まで生涯にわたっていることが示された。個人にとっても就職や海外留学時などに接種歴の証明が求められる場合があり、延長を必要とする自治体の意見も紹介された。
死亡後5年間の保存は全ての人を対象にする方針で、厚労省は省令改正のための手続きに入る。26年度からはマイナンバーカードを活用して予防接種事務をデジタル化する取り組みを始める予定。ワクチンの有効性や安全性評価のためのデータベースも構築される。
京都大大学院の中山健夫教授(健康情報学)は「これまで日本には、ワクチンの有効性や安全性をスピーディーに、また長期的に評価するためのデータベースがなかった。記録の保存はその構築に向けて大きな一歩になる」と評価。「個人にとっても生涯にわたり接種記録を確認でき、データベースを使った研究成果が還元されるメリットがある」と話した。【中村好見】