横浜港(横浜市)で4日に開かれた花火大会で、花火を打ち上げる台船上で暴発する事故が起き、前日の3日にも淡路島(兵庫県淡路市)の大会で地上爆発が起きるなど、事故が相次いだ。札幌市では安全性への懸念を理由に23日に予定していた大会の中止を決めるなど、一連の事故の余波が続いている。花火大会への不安が高まる中、専門家の冴木一馬氏は「事故がたまたま重なった」と分析する。その根拠と事故原因などについて、冴木氏に見解をたずねた。(聞き手 外崎晃彦)
――横浜港での今回の事故原因をどう見ているか
状況を撮影した動画を見る限り、「過早発」もしくは「筒ばね」と呼ばれる事故だろう。過早発は花火が筒から発射直後、筒ばねは花火が筒内で暴発してしまう事故。その後、台船上で火の手が上がり、同じ位置からプログラムに関係ない玉が打ち上がったり低空で開いたりする花火が増え、延焼の範囲が広がっている。
――過早発や筒ばねとなった原因は
いずれも製品不良であろうと考えられる。通常、花火玉の中では点火した導火線が燃え進み、上空に上がりきったところで中央に達してバーンと開くという仕組み。だが、導火線に隙間があるなど製品不良の場合、一気に中心に火が通ってしまい、筒の中や発射直後に開いてしまう。
命の危険もあった緊迫状況
――製品不良による事故は防げないのか
昔は筒の横に花火師が一人一人、シントルと呼ばれる種火をマッチのように擦って投入し、一発ずつ打ち上げていた。だが、この方法ではひとたび事故が発生すると、巻き込まれる可能性が高い。そのため1990年代以降は当時の通産省の指導によって、遠隔点火方式に切り替わっていった。いまはコンピュータ管理で、数十メートル離れた場所からボタンを押して打ち上げている。
――安全性が高まった
しかし、弊害もある。筒の周りにたくさん配線が設置されるようになった。配線はビニールで巻かれているので燃える。今回の横浜のケースでは、台船の火災の原因はそれだとみられる。
――遠隔点火はどう行われていた
花火師たちは台船の上に設置されたコンテナの中から点火作業をする。コンテナ内には花火師が5人いた。火が燃え広がった当初は、消火しようにも誘爆があまりにも続き、コンテナから出て行けば命の危険もあった。それで花火師らはコンテナの中で様子を見て、1時間ぐらいが過ぎてから、安全なタイミングを見計らって海に飛び込んだ。
――消防艇はすぐに消火しなかった
花火が次々と点火している間、近づいたら船に火がつく可能性があるので、近づけない。花火師たちはすでに海に飛び込んで助けられているので、あとは全部燃え尽きるまで待った方がいいと判断したのだろう。消火活動が翌日まで長引いた理由もその点にありそうだ。
国内で年1万1000回開催
――花火大会は危険との認識が広まったのでは
火災の規模が大きかったことで注目度が高まったが、観客も大丈夫だったし、花火師も1人が軽傷を負ったが、ほかにけが人はなく、亡くなった人もいなかった。二重三重の安全対策のおかげだと考えられる。
――前日には淡路島でも事故が起きている
淡路島の件も「筒ばね」が原因で、状況としては横浜と全く一緒だ。花火の事故は現在、年に2,3件起きているが、私がこの仕事に携わった約40年前は年20件ほどだったことを考えると安全性が飛躍的に向上している。開催自体も増え、日本国内では現在、花火大会が年に約1万1000回開かれている。テーマパークでのイベントなども含め、365日ほぼ毎日どこかで花火が上がっているという状態。事故が2日続けて起きたのは本当にまれなことだと考えられる。
――今回の花火師の事故対応をどう見る
今回は花火師の判断が本当に良かった。花火師がすぐに出て消火しようとしたら、死亡事故にもつながりかねなかった。観客とも保安距離が600メートル取ってあった。花火玉が開いた時の半径は約150メートル。観客まで450メートルもの余裕がある。花火師がコンテナの中に身を隠し続けたのも良い判断だった。
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【プロフィル】冴木一馬氏(さえき・かずま)
1957年生まれ、67歳。山形県鶴岡市出身。報道カメラマンを経て87年に花火の撮影を開始。97年、花火師(煙火打揚従事者)の資格を取得。ハナビストと名乗り、国内外の花火を撮影しながら、花火の歴史や文化の研究を続けている。