大阪・ミナミで起きた雑居ビル火災は、炎と黒煙が瞬く間に現場の建物を覆い、活動中の消防隊員2人が犠牲となった。なぜここまで被害が拡大したのか。専門家は「繁華街特有の建物の特徴が火の回りを早めた可能性がある」と指摘する。
低層階から勢いよく噴き出す炎。火は建物の外壁を伝うように燃え広がっていく――。交流サイト(SNS)上には、現場のビルが延焼していく様子を捉えた動画や写真が、いくつも投稿されている。
火災は18日午前10時前に起き、隣り合った7階建てと6階建てのビル2棟が計約100平方メートル焼損した。二つのビルは一部が連絡通路でつながっている構造だった。
大阪府警と大阪市消防局は、西側に位置する6階建てビルの低層部が火元だった可能性があるとみて、出火場所の特定を進めている。
複数の目撃者によると、付近では午前9時40分ごろから「ボンッ」という破裂音が断続的に聞こえ、約10分後にはすでに、建物が炎と黒煙に包まれていたという。近くの店舗にいて火災に気づいた男性は「あっという間だった」と振り返った。
今回の火災について、元東京消防庁麻布消防署長の坂口隆夫・市民防災研究所理事は「ビルの壁面に設置されていた広告物が、火の回りを早くした可能性がある」と語る。
現場の二つの雑居ビルは、大阪有数の観光地として有名な道頓堀川沿いにある。人目に付きやすいよう巨大な看板を屋外に掲げている建物が多く、火災があった雑居ビルも入居店舗を知らせるものなど、大小さまざまな看板や広告が設置されていた。
坂口さんは、出火から時間がたたないうちに建物全体に燃え広がった点について言及。鉄筋コンクリート部分が見えるほど外壁が激しく燃えているとして、「広告物に火がつけば、ビニール樹脂系統など素材が燃えやすいものだと一気に火の手が広がってしまう。事例は多くないものの、繁華街ビル火災の特徴といえる」と話す。
コンクリート製の建物は耐火性に優れていることから、通常なら火災が起きても隣の建物に燃え移ることはないという。その上で「今回は6階建てビルの低層部から出火した後、看板広告に延焼したり、連絡通路から屋内に火が入ったりして、7階建てビルが燃えた可能性がある」との見方を示した。
死亡した2人の消防隊員は、火元とみられるビルとは別の7階建てビルの5階で活動中だった。ここで天井の崩落が起き、取り残されたとされる。
坂口さんは崩落について、「火災で建物が熱せられ、天井のもろい部分がはがれ落ちたのではないか」と推測。崩落を予想するのは難しいが、「隊員たちがなぜ出火元の隣のビルの5階まで進入せざるを得なかったのか、疑問が残る」と話した。
死亡事故を受けて、市消防局は21日に事故調査委員会の初会合を開く。
坂口さんは「消防隊員は危険な場所に入らないことが基本だ」とし、隊員らが5階に進入した目的や、どこまで現場の安全管理ができていたかが調査のポイントになると指摘する。
「延焼の危険をどれくらい認識していたのか。連絡通路の存在など、建物の構造の把握はできていたのか。命綱や投光器といった隊員の装備も含めて、徹底した検証が必要だ」と訴える。【大坪菜々美、根本佳奈】