終戦から80年が過ぎ、元軍人が所有していた軍用拳銃が死後に自宅で見つかるケースが相次いでいる。「遺品拳銃」と呼ばれ、警察庁には昨年までの5年間に900件以上報告された。暴発の恐れがあり、同庁が注意を呼びかけている。(松山支局 黒岩美緒、丸山竜誠)
奈良県斑鳩町の空き家で6月、旧日本軍で使われていたとみられる軍用拳銃1丁が発見された。
県警によると、所有者の男性が空き家を売却するため、不動産業者と屋内を確認した際、2階和室の押し入れから段ボール箱に入った拳銃を見つけた。以前に住んでいた親族が旧日本軍の軍人で、鑑定の結果、拳銃は発射能力が確認された。
松山市の買い取り専門店では5月下旬、従業員が客から持ち込まれた複数のモデルガンなどを整理中、拳銃のようなものが暴発した。店内の仕切りを貫通し、銃弾1発と薬きょうが確認された。けが人はなかった。
愛媛県警によると、県内の女性が家族の遺品を整理していた際、拳銃や刀のようなものを複数見つけ、店に売却。このうちの一つが暴発したという。
県警は、軍用拳銃の可能性があるとして鑑定を進めている。
拳銃が見つかった場合、警察が回収する。
警察庁によると、全国の警察が取り扱った遺品拳銃の件数は増加傾向で、2020年は167件だったが、昨年は205件に増えた。家屋の解体や引っ越しのため、親族らが遺品の整理をした際に発見されることが多いという。
日本銃砲史学会の折原繁事務局長は増加の理由について「従軍世代が高齢で亡くなっているためではないか」と推測する。
折原事務局長によると、旧日本軍では、将校など一定の階級以上だと、拳銃を自費で購入していた時期があった。価格は現在に換算して10万~20万円。終戦後、旧日本軍は武装解除され、多くの拳銃が回収された。1946年に銃砲等所持禁止令が出され、58年には銃刀法が施行され、拳銃の所持は厳しく取り締まられるようになった。
折原事務局長は「拳銃は高価で、自分の財産であるとの意識が強かった。戦争体験がトラウマになり、拳銃のことを家族に話せないまま亡くなった人も多いのではないか」とみる。
警察などが拳銃を保管する場合、本体と実弾を別々にしておくのが一般的だ。しかし、発見された遺品拳銃の中には実弾が装填(そうてん)されたままのケースもある。
武器研究家の須川薫雄さんは「終戦から80年が過ぎ、火薬が変質し、ちょっとした衝撃で暴発する恐れもある」と懸念。本物の拳銃とモデルガンは、サイズや形状がほぼ同じで、素人が区別するのは難しいといい、「拳銃らしきものを見つけたら絶対に触ってはいけない」と語る。
警察庁は「拳銃は、たとえ大事な形見であっても所持できず、銃刀法違反になり得る。発見時は速やかに最寄りの警察署に連絡してほしい」としている。