仕事を辞めたら楽になるという誤解…1年に10万人以上が「介護離職」するも、その先に待つ「三重苦」【介護離職防止対策アドバイザーが解説】

高齢化が進む現代社会において、家庭内における介護問題は他人事ではありません。介護を自分で行う場合には、離職を検討する場合もあるでしょう。そこで、介護と離職はどのような関係にあるのか、専門家の視点からデータを見てみましょう。本記事では介護離職の観点からアプローチしてきた介護離職防止対策アドバイザー(R)、和氣美枝氏の著書『介護離職が頭をよぎったら整えたい 仕事・家庭・自分自身のこと』(翔泳社)から一部抜粋・編集し、介護離職のリアルをお届けします。
介護離職したらどうなりますか?
介護離職の多様なリスク
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行ったアンケート調査によると、「手助・介護」を機に仕事を辞めた場合、精神・肉体・経済いずれの面においても負担が増えることが明らかになっています。
仕事を辞めると、当然ながら経済的に不安定になります。また、経済的に余裕がなければ、介護サービスの利用などを控えるようになり、自らの身体を使って介護をするようになるので、肉体的な負担も増えます。加えて、こうした状況は精神的不安を助長することになります。
裏を返せば、「経済的に余裕があれば介護離職してもいい」かのように思えるかもしれません。確かに、お金があれば精神的負担や肉体的負担を解決できることもあります。
しかし、離職することによるデメリットは金銭だけではありません。離職して仕事との接点が希薄になることで、「社会人基礎力」の低下リスクがあるのです。
復職が難しくなる可能性も
社会人基礎力とは、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」(経済産業省)です。人生100年時代の働き手は、業界等の特性に応じた能力(アプリ)と、社会人としての基盤能力(OS)を常にアップデートし続けていくことが求められます。
アップデートの場は必ずしも会社だけではありませんが、離職後の生活はアップデートの機会が限りなく減ります。ゆえに、離職期間が長くなれば、おのずと復職に支障が出る可能性があることに注意が必要なのです。
介護離職している人はどれぐらいいますか?
1年で10万人が介護離職?
介護離職をしている人は、現在の日本にどれくらいいるのでしょう。
令和4年「就業構造基本調査」によると、過去1年以内に前職を離職した者のうち、「介護・看護のため」を理由とした離職者は10万6,200人(令和3年10月以降)となっています。
またこれにくわえ、退職理由を「家族の介護」と申告していない場合もありますので、実際の介護離職者はもっと多いことが予想されます。
同調査によると「前職の離職理由」で最も多かったのは「労働条件が悪かったため」72万8,300人(令和3年10月以降)です。その中に、「仕事と介護の両立をしたくても、残業が多くて続けられなかった」という人などが含まれている可能性もあるのです。
介護離職から再就職まで
しかし、ここで紹介されている数字は、あくまで「離職」の数です。その中には転職者も含まれており、全員が今なお無職というわけではありません。
また、少し期間を置いてから再就職している方も少なくありません。三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告」によると、「手助・介護」のために仕事を辞めてから6か月以内に再就職した人のうち、62.3%は「正社員」として採用されています。
そして、再就職した理由の1位は、「仕事と『手助・介護』の両立が可能な職場だった」からとなっています。介護離職は、あなた自身のキャリアデザインを考えるきっかけになるかもしれません。
「会社に迷惑がかかるから辞めるしかない」は本当?
「制度を利用できない」から辞める?
介護離職した人は、どのような理由からその決断に至ったのでしょう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングのアンケート調査からわかるように、勤務先に両立支援制度が整備されていなかったことや、介護休業を取得しづらい雰囲気があることなど、【勤務先の問題】が介護離職の理由として一番多くなっています。
そのほかにも、介護保険サービスなどの利用方法などがわからなかった【サービスの問題】や、自分の希望(仕事を続けたくなかった)などが続きました。
しかし、介護休業制度は法律に定められているため「私の会社には制度がない」ということはありません。本人または経営者が「制度を知らなかった」がゆえの結果だとすると、極めてもったいない離職のような気がします。
自責の念が離職につながるパターン
また、「自分の希望(仕事を続けたくなかった)」にも注意が必要です。介護に専念したいなどの理由で就業継続意思がないのであれば問題ありません。
しかし実際には、日々の介護によって心が蝕まれ、たとえば業務上のミスが増えた結果、「これ以上会社に迷惑をかけたくない」という思いが強くなり離職を決断するパターンが少なくないのです。
こうした精神的な理由での離職はトラウマになり再就職に苦労する傾向にあるため、回避するが望ましいでしょう。
和氣美枝 一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS) 代表理事