8月20日、神戸市のマンションで、見ず知らずの住人女性をストーキングし、殺害に至った驚愕の事件。殺人容疑で逮捕された谷本将志容疑者(35)は、同じくつきまとい行為の果てに、女性に暴行を加えた前科があった。なぜ惨劇は繰り返されたのか。男の「血塗られた人生」を辿った。( 全3回の1回目/続きを読む )
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「刑務所には入っていないのですが、拘置所には行きました。実は今、執行猶予中なんです……」
2022年12月。福岡県内のとある産業廃棄物処理業者の求人に応募した男は、社長におもむろに打ち明けた。そして、自身が犯した過ちについて、不気味にこう続けるのだった。
「半年前、女の子との気持ちの行き違いがありました。彼女に告白したが、自分の思っていることが伝わらず、首を絞めてしまった。その結果、(殺人未遂で)逮捕されました」
それから3年後、執行猶予も明けきらぬうちに、男は再び、信じられない凶行に走ることになる――。
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神戸・三宮の繁華街から南へ歩くこと15分。大都市の喧騒とは打って変わり、そこには人通りの少ない住宅エリアが広がっている。
その一角に立つ瀟洒(しょうしゃ)なマンションで事件が起きたのは、8月20日の午後7時20分頃のことだった。
「大手損害保険会社の神戸支店に勤務していた片山恵さん(24)が、自宅マンションで何者かに刃物で殺害されたのです。現場周辺には血の海が広がり、犯人は現場から逃走。兵庫県警は翌日、神戸市内の葺合(ふきあい)署に80人態勢の捜査本部を設置しました」(社会部記者)
容疑者逮捕の知らせが伝えられたのは、事件発生から2日後の22日の夕刻。場所は神戸市から約380キロ離れた東京・奥多摩町だった。
「殺人容疑で逮捕されたのは、東京・新宿区に住む会社員の谷本将志容疑者(35)。被害者との面識はなかったと見られています」(同前)
奥多摩の竹林沿いの山道を1人で歩いていた谷本。確保の瞬間を目撃した近隣住民が言う。
「大勢の警察官が金髪交じりの男を押さえ込んでいて、騒然としていました。男は何か叫んでいたけど、聞き取れなかった。その後、何台もの警察車両がやって来た。男が食べながら歩いていたのか、確保された周辺には、お菓子が散らばってました」
この日、谷本は最終の新幹線に乗って捜査本部が置かれた兵庫県警葺合署へ移送された。新神戸駅では終始、両手で顔を隠して歩き、押し寄せたマスコミと野次馬には一瞥もくれず、警察車両に乗り込んだ。
異常とも思える“ストーカー癖”
8月24日、県警は谷本を神戸地検に送検。目下、本格的な取り調べが行われている。
中でも注目されているのは、谷本の異常とも思える“ストーカー癖”である。捜査関係者が語る。
「勤務先の大手損保支店から、片山さんが退勤し、自宅マンションに帰宅するまで、谷本は約50分にわたって後をつけています。途中、電車を乗り継いでも追跡を続け、彼女のマンションのオートロックも彼女の後に続いて突破。そのままエレベーターに2人きりで同乗した際に、突如として片山さんに襲い掛かったのです」
その様子をモニター越しに見ていた別の住人が通報。警察官が駆け付けた時には、片山さんは自室がある6階のエレベーターホールで血を流して倒れていた。
「胸付近を刃物で複数回刺されていて、約1時間後に搬送先の病院で死亡が確認されました。司法解剖の結果、死因は失血死と推定されています」(同前)
「刺したことに間違いない」「全く知らない人」
谷本はマンションの階段を使って現場を離れ、タクシーで新神戸駅へと逃走。新幹線で東京に向かったと見られる。
「県警は防犯カメラ映像などで谷本の行方を追い、リレー捜査によって居場所を割り出した。奥多摩の路上で声をかけた際には抵抗されたものの、大勢の警察官で制圧し、逮捕に至った」(同前)
調べに対し、谷本は「殺意を持っていたかはわからないが、ナイフで刺したことに間違いない」と供述。片山さんについては、「全く知らない人です」と話しているという。
実際、谷本と被害者の片山さんには、それまで一切面識がなかったと見られる。片山さんの小学校の同級生が明かす。
「めぐは真面目で賢く、優しい子でした。友人も多かった。最近は、SNSでよく海外旅行に行っている様子などをアップしていました」
保険会社には2023年4月に入社。社会人3年目で、神戸支店では保険営業を担当する“損保レディ”だった。
「顧客のニーズに合わせて保険のプランを考え、提案する仕事です。明るい性格でコミュニケーション能力が高いと評判だった。顧客からクレームが来たことはなく、働きぶりに対しては前向きな評価を得ていました」(保険会社社員)
帰宅する50分間ずっとストーキングを…
凶刃に倒れた日も、片山さんは支店に出勤。午後6時半に退勤し、近くの郵便局に立ち寄った後、電車を乗り継いで帰路に就いた。この間の50分、谷本はずっと、片山さんをストーキングしていたのだ。
「谷本は新宿区在住ですが、神戸での居住歴も確認されており、土地勘があったと見られます。事件当日はお盆休みで神戸に帰省中でした」(前出・捜査関係者)
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なぜ、谷本は神戸で犯行に及んだのか。取材班が谷本の“履歴”をたどると、そこにはどす黒い漆黒の闇が広がっていた――。
〈 女性の部屋に侵入→首を絞めて相手を口説き→「警察に言わないで」と逃走…神戸ストーカー事件・谷本将志容疑者(35)が3年前にみせていた“不可解な行動” 〉へ続く
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年9月4日号)