宮城県石巻市門脇の障害者施設「ひたかみ園」で2022年12月、入浴介助を受けていた入所者の阿部加奈さん(当時38歳)が全身にやけどを負い、死亡する事故があったことが分かった。施設がまとめた事故報告書では、湯温が50度前後だった可能性があったとした。遺族は関係職員を業務上過失致死容疑で刑事告訴しており、同市内の母親(76)は7日に取材に応じ、「真実を明らかにしたい」と無念さをにじませた。
加奈さんは生まれつき心身に重い障害があり、言葉などによる意思表示ができず、普段は車椅子で生活していた。介護をする母親が病気で入院するため、22年11月30日から、同施設に短期入所をしていた。
事故報告書によると、浴室の蛇口は熱湯と水が別々だった。同年12月30日午前9時10分から湯張りを行い、職員2人が素手で湯温を複数回確認、温度計が40度を示していたことも目視したという。
同10時3分、リフト付きの浴槽に加奈さんを入れたが5分後に風呂から上げると、右太ももの皮膚が剥がれたような痕を見つけ、症状が胸部や腹部などに進行。やけどと判断し、同26分に119番した。
加奈さんは、市内の病院からドクターヘリで仙台市内の病院に搬送され、3日後の1月2日、全身熱傷による呼吸不全で亡くなった。やけどは全身の60%に及んでいたという。報告書では事故原因について、湯をかき混ぜなかったことや、温度測定が統一されていなかったことなどを挙げている。
遺族などによると、事故直後、駆け付けた親族に、施設側は「40度のお湯に5分入れた」と説明し、43度を示した温度計の画像を見せたという。だが、その後の施設の検証で、湯温は50度前後だった可能性があることが判明。見せた画像も加奈さんを病院に搬送した後の午前10時42分に撮影したものだった。
遺族は昨年2月、石巻署に刑事告訴した。母親は「お湯の温度の説明など到底納得できるものではなく、不信感が募っている」と主張。「加奈はいつも笑顔で穏やかな性格だった。言葉も発することができず、どれほどつらい思いをしたのだろう。悔しくてならない」と訴える。
この事故を巡って、施設は23年1月に県の特別監査を受け、事故報告書や改善報告書を提出。マニュアルを見直して湯のかき混ぜや温度確認に関して追記することや施設改修を行うとしている。
同施設の斎藤康隆園長は、取材に対し「事故の責任は施設にあり、組織としての体制の不備が大きな原因と考えている。一人の命を奪ってしまったことは、ご遺族に深く謝罪するしかない」とした上で、「警察の調べが行われており、誠意をもって事実をそのままに伝えたい」としている。