「志保は実の娘の美(よし)輝(き)ちゃんを『汚物』『ゴキブリ』『異常な娘』と呼び、虐待を繰り返した。父である健一もまた娘を『miracle fat girl』『諸悪の根源』『ざんぱんまん』などと酷い言葉で死の直前まで呼び続けていたのです」(捜査関係者)
東京・浅草に住む夫婦が親族4人に有害な化学物質を飲ませて殺害したとして逮捕された事件。あまりに陰惨な事実を示す新証拠を「 週刊文春 」は入手した。
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親族4人の殺害容疑で起訴
事件は23年3月、当時わずか4歳だった細谷美輝ちゃんの死亡がきっかけで発覚した。
警視庁は、それから1年後の24年2月、美輝ちゃんの体内から車の不凍液等に使用されるエチレングリコールが検出されたとして殺人容疑で浅草のホテルを経営していた父親の健一被告(44)と母親の志保被告(39)を逮捕した。
「18年1月に健一の母・八恵子さん(享年68)、同年4月に姉の美奈子さん(同41)、6月に父・勇さん(同73)が相次いで亡くなっており、彼ら3人を殺害した容疑でも警察は2人を再逮捕した。3人は美輝ちゃんと同じく、エチレングリコールを夫妻から摂取させられ、死亡したとみられる。
今年3月までに、健一は美輝ちゃんを除く3人の殺害容疑で起訴され、志保は親族4人全員の殺害容疑で起訴された。取り調べでは、健一は軽い雑談に応じるものの、志保は完全に黙秘。当局は一連の犯行を主導したのは志保とみている」(全国紙社会部記者)
夫妻による美輝ちゃんへの“地獄虐待”
親族4人が連続して殺害された卑劣な事件。夫妻による美輝ちゃんへの“地獄虐待”が始まったのはある事件がきっかけだった。
美輝ちゃんがまだ生まれたばかりの19年3月、志保が夫婦喧嘩の末に自宅のベランダで放火するという騒ぎを起こした。その結果、志保は一時的に警察に身柄を留置された。
「その後の調べで、警察は志保が子どもたちへ心理的な虐待を行っている疑いがあると判断。連絡を受けた児童相談所が、細谷夫婦の3人の子供を保護する決定を下しました」(同前)
だが、細谷夫妻の顧問弁護士の介入もあって、放火騒ぎの半年後の19年9月までに美輝ちゃんら3人の子供は夫妻の住む自宅マンションに戻された。
「夫婦はこの件で児相を逆恨みした挙句、生後まもなく児相に預けられた美輝ちゃんを、その不信感から全く可愛がらなくなったのです」(健一の知人)
そして、冒頭のように、夫妻は美輝ちゃんのことを実の娘に投げかけるとは思えぬような酷い言葉で呼ぶようになる。
「ブタゴリラ」「疫病神」「男好きの性欲激しいデブス」。やがて罵詈雑言とともに美輝ちゃんへの身体的虐待が始まる。美輝ちゃんはけがをしたまま保育園に通い、不審に思った園が両親に連絡することもあった。
「主にお迎えを担当していた健一に美輝ちゃんのけがについて指摘すると、その直後に転園するケースもあったようだ。美輝ちゃんは亡くなるまで6つの保育施設を転々としていた。園がコロコロ変わったのは、両被告が、虐待発覚を恐れて転園させた可能性が高い」(別の捜査関係者)
「ママにされた」悲痛な訴えは届かず…
亡くなる半年前の22年9月29日。保育園が当時撮影した美輝ちゃんの顔写真を「週刊文春」は独自に入手した。そこには、右のおでこに痛ましい青あざができている美輝ちゃんが写っていた。当時の保育園の記録にはこう記されている。
〈家庭の室内を走っていて転倒、壁にぶつけた。9:00頃 9時30分に1度登園するが、頭部のけがのため、通院をお願いする〉
その約1カ月後の11月4日の記録では、美輝ちゃんの体の傷がどんどん増えたことがわかる。
〈・右頬のアザ ・左目上のアザ、傷 ・左頬の傷 ・鼻2ヶ所の傷 受け入れでは傷のみ確認。父より…自分で引っ掻いた その後、担任がアザに気付く。本児は傷もアザも「わからない」と言う〉
父は「自分でひっかいたものだ」と園に説明し、美輝ちゃんも言葉を濁した。それから3日後、ついに本当の事を打ち明ける。
〈11月7日(月) 表情はすぐれない。顔にアザ 両頬に新しい傷…〈中略〉担任が聞き取った時に「ママにされた」と答えた〉
だが、結果として美輝ちゃんの悲痛な訴えは届かなかった。美輝ちゃんは翌年の3月13日に亡くなる。すると一転、それまで娘のことを悪し様に罵っていた健一と志保は美輝ちゃんの呼称を改めるのだ。
「捜査当局や周囲に対しても一貫して、『美輝』と呼ぶようになった。明らかに呼び方が変わっており、自分たちの犯行であることを隠す意図があったとみられる」(前出・捜査関係者)
それから1年後、2人は逮捕され、美輝ちゃんの兄と姉は児相に保護された。親族4人を失った健一の長姉は、いま周囲にこう悔しさを吐露している。
「健一には罪を償い、真人間となって子供達に謝罪してほしい。志保には極刑がふさわしい。この全ての事件の元凶であり、家族を崩壊させた張本人です」
前代未聞の事件の初公判は来年開始される見通しだ。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年10月2日号)