ノーベル化学賞でまた栄誉、「福井一門」の輝かしい足跡…北川進さん「世界を見据えた研究に挑めと言われた」

ノーベル化学賞の受賞が決まった京都大特別教授の北川進さん(74)は、日本初のノーベル化学賞に輝いた福井謙一氏(1918~98年)の孫弟子として、京大の学生時代に指導を受けた。福井氏の下には優秀な人材が集い、「福井一門」とも呼ばれた。2019年、ノーベル化学賞を受賞した旭化成名誉フェローの吉野彰さん(77)も福井氏の孫弟子だ。日本が誇る化学研究の系譜がまた一つ、輝かしい足跡を残した。
自由な発想、体系的思考

「学問を究めた殿様という感じ。世界を見据えた研究に挑めと言われ、非常に影響を受けた」。北川さんは懐かしそうに、福井氏から受けた薫陶の日々を振り返る。
福井氏にしたためてもらった「智自在」という書は、宝物として大切にしている。「自由な発想のもとに色々考えたり、サイエンスをやるのを楽しんだりと、そういうことを3文字で言ったのだと思う」と話す。
京大では1979年までの約6年間、福井氏の一番弟子の米沢貞次郎氏(1923~2008年)に師事した。毎週土曜に、福井、米沢両氏が合同で開いていた研究会で、福井氏は「コンセプト(基本概念)を出しなさい」と、弟子たちに物事の本質をつかむように助言し続けたという。
「若い人が常に世界を見て切磋琢磨(せっさたくま)していた。非常に高いレベルのグループにいて、プライドを植え付けられ、財産になった」と振り返る。
北川さんは大学院を出た後、異分野の研究に取り組んだが、福井氏に学んだ理論的、体系的な考え方や本質を捉える手法は今も生きているという。
「研究にどういう意味があるのかを突き詰める。まだ達しないけど、その伝統は受け継いでいる」
医学への応用期待…若い研究者 大きな励み

ノーベル化学賞の受賞が決まった北川進・京都大特別教授(74)に対し、日本の歴代受賞者から祝福の声が上がった。
白川英樹・筑波大名誉教授(89)=2000年受賞
素晴らしい研究成果で、受賞は本当にめでたい。有機化合物と無機化合物を組み合わせて作った無数の小さな空間を利用して、物質を選別したり、吸着したり、変換したりでき、様々なことに利用できる。優れた研究成果に敬意を表したい。化学工業や、環境分野だけでなく医学分野などへの応用も期待している。日本人がノーベル賞を1年で二人受賞するのは久しぶりだが、日本には受賞に値する科学者がまだたくさんいる。若い人が長い目で安心して基礎科学、応用科学に取り組める環境を整えていく必要がある。
科学技術振興機構研究開発戦略センターの野依良治・名誉センター長(87)=2001年受賞
6年ぶりの(日本人の)ノーベル化学賞で、心よりお祝いしたい。日本の化学の伝統が続いていると世界に示してもらったことは大変ありがたい。最初に見つけた非常に貴重で小さな種を、ここまで忍耐強く育ててきたことに敬意を表したい。開発したのは、金属元素と有機化合物を合わせたもので、これを材料にすることは革新的だ。(相次ぐ日本人の受賞決定は)誇らしい。日本人が科学する心を持っていることを示し、研究者を目指す若い人たちにとっても大きな励みとなる。