13日に閉幕した大阪・関西万博では、海外パビリオンを巡る工事費の未払い問題がなお解決していない。11か国の工事に携わった下請け業者が未払いを訴え、総額は10億円以上に上る。今後の解体工事への影響も懸念される。(猪原章、大槻浩之)
「不眠不休で開幕に間に合わせた。大きな被害を受けながら、いまだに出口が見えない」。マルタ館の工事を担った京都市内の建設会社社長の男性(40)は9月30日、国会内で記者会見を開き、窮状を訴えた。
男性は6月、元請けの外資系イベント会社「GLイベンツジャパン」(東京)を相手取り、約1億2000万円の支払いを求め東京地裁に提訴。未払いを訴える下請け業者らでつくる「被害者の会」にも入った。
訴状によると、今年2月にGL社と契約し、開幕2日前の4月11日頃までに完成させた。工期は2か月だった。しかし、GL社からは「工事が遅れた」などとして、請負代金の一部と追加工事費が支払われていないとしている。
GL社はマルタのほか、ドイツ館とセルビア館の下請け業者からも訴訟を起こされている。関係者によると、一部で和解の動きも出ているが、GL社は「係争中のため回答を差し控える」としている。
日本国際博覧会協会(万博協会)によると、9月までに11か国のパビリオンの下請け業者から未払いの相談があった。大半は元請けが外資系企業で、元請けと下請けや、下請け同士でトラブルが起きている。「被害者の会」の集計では、支払いに影響が出ている業者は30社以上あり、未払い額は十数億円。全面解決のめどは立っていない。
未払い問題の背景にあるのは、工期の短さだ。
前回のドバイ万博(2021年10月~22年3月末)はコロナ禍で1年延期された。閉幕後に次の万博の準備に取りかかる参加国にとって猶予は3年しかなく、施工業者探しが遅れた上、資材費の高騰や人手不足も重なった。国内館は多くが23年中に着工したが、海外館の建設が本格化したのは24年以降だった。
建設の契約に詳しい楠茂樹・筑波大教授(経済法)は「突貫工事で時間的余裕がないと、追加工事が発生した時に契約書を作らず、口約束になりがちだ。相手が海外企業の場合、文書にない費用は払ってもらえないリスクが高くなる」と指摘する。
トラブルがあった11館のうち9館は、参加国が自前で建てる「タイプA」のパビリオンで、国内の大手ゼネコンは受注しなかった。デザインが複雑で工事が難しく、敬遠されたとみられる。危機感を強めた大阪府や大阪市は、中小の建設会社に受注を呼びかけていた。
被害者の会は「国家プロジェクトなので信頼し、難しい工事を頑張ってきた。民間同士の話だと切り捨てず、万博協会や大阪府・市には寄り添った対応をしてほしい」と訴える。
日本政府は、海外館の工事の代金が参加国側から支払われなかった場合に備え、全額または大半を補償する「万博貿易保険」を設けていた。しかし、加入対象は元請けのみ。経済状況や政情不安による参加国の未払いを想定していたためだ。
万博協会側は融資の相談などに乗っているが、立て替えや無利子融資などの支援は難しいとの立場だ。
万博協会の石毛博行事務総長は7日の記者会見で、「当事者の間で見解が違う話であり、当事者同士で話をするか別の手段でやるしかない」と述べた。
楠教授は「万博協会は、短い工期や資材高騰でトラブルになりやすいという予測はできたはずで、業者側に十分注意喚起したかが問われる。今回は、開幕に間に合わせるという業者の職人気質に頼ったことが裏目に出た。国際イベントはトラブルを見越し、余裕を持って計画を立てることが今回の教訓だ」と指摘する。
解体工事の口頭契約に注意喚起
海外パビリオンの解体工事が本格化するのはこれからだ。
解体業者74社でつくる大阪府解体工事業協会は9月26日、万博協会に適切な業者選定や契約を求める上申書を提出。すでに加盟社には、口頭での契約を避けるよう注意喚起したという。府解体工事業協会は「未払い問題は大きな不安要素。万博協会には健全な工事環境の確保をお願いしたい」と訴える。
タイプAの42館の解体工事は、建設時と同様、参加国が実施する。作業自体は建設工事の元請けが引き続き担当するケースも多い。
万博協会は、建物の解体後、2028年2月までに土地を返還する契約を所有者の大阪市と結んでいる。大阪市は、26年春に万博跡地の開発事業者を公募する。未払いのトラブルが発生し、建物の解体が進まなければ、跡地の活用にも影響する恐れがある。
万博協会幹部は「参加国に対し、早めの業者確保と解体のスケジュールを定めたガイドライン(指針)の順守を呼びかけていく」と話している。