列島震撼、西日本にも広がるクマの脅威 京都・嵐山にも出没「目撃は長い間なかった」

東北など東日本を中心にクマによる被害が多発する中、西日本各地でもクマの出没が相次ぎ、一部では負傷者も出ている。市街地に出現する「アーバンベア」が課題となる中、国内外の人でにぎわう観光地の周辺のほか、生態エリアとされていなかった場所でも出没があり「経験不足」の自治体は対応に苦慮。研究機関の担当者はクマと人間の棲み分けを進め、遭遇するリスクを減らす対策が重要と指摘している。
世界遺産の寺院や渡月橋などの名所で知られる京都市の嵯峨嵐山やその周辺では今月24~28日、8件の目撃情報が市に寄せられた。観光客でにぎわう「竹林の小径(こみち)」付近でも出没したという。
「目撃は長い間なかったので驚いた」と嵐山商店街の石川恵介会長。商店街に注意喚起をしたり、クマを寄せ付けないようゴミをこまめに片付けたりし、警戒を続けている。京都市は観光客への周知も検討している。
京都府によると今年度の目撃情報は30日時点で919件。8日には舞鶴市の民家近くで男性が襲われ負傷する事案があった。
気がかりなのが、府南部での目撃情報の増加だ。生態エリアとされていなかった木津川市では5月、府が記録を始めた平成19年以降、初めての目撃例があった。その後もクマらしき動物を見たという通報が相次いでいる。
木津川市によると、クマはどこから来たか分かっておらず、市民からは捕獲を求める意見が多数寄せられている。しかし、人に危害を加えていない個体への対応には限界がある。国のガイドラインが、そうしたクマはわなで捕獲して人への恐怖を学ばせ、山奥に放つよう規定しているためだ。ただ市内に山深い地域が少なく、放獣は住民や周辺自治体の同意を得られにくい。現時点では小中学校の児童生徒にクマよけの鈴を配ったり、目撃情報を周知したりするなどの対応にとどまっている。
関西一円で目撃情報が増えている。兵庫県豊岡市では4、5月の目撃情報が昨年同期の約2倍に達した。5月には農作業中の男性が襲われる被害もあった。大阪府高槻市や和歌山県串本町、奈良市などでもクマとみられる動物を含めた目撃情報がある。
自治体の危機感も高まっている。神戸市は昨年度、山間部の野生動物を対象とした監視カメラを約100台増設。映像を人工知能(AI)で分析し、クマやシカを自動検知するシステムを導入している。クマの検知例はまだないが、市は「侵入や定着を未然に防ぐため警戒を続けたい」とする。
続出するクマ出没の背景には、猛暑で餌となるドングリが育たず山を下りてくる個体の増加に加え、農村部の人口減少、耕作放棄地の拡大などがあると指摘されている。兵庫県森林動物研究センター(同県丹波市)の河野賢治・森林動物専門員は「クマを寄せ付ける不要な果樹の伐採や、農地への電気柵設置などでクマを人に遭遇させない対策が必要だ」と述べた。(東九龍、小野田銀河)