清水寺にも祇園にもたどり着けない…大混雑の秋の京都「バスが来ても乗れない問題」に市交通局が出した答え

1日34万人が利用する「京都市交通局」の路線バス(以下:京都市営バス)で、「乗れない」「時間通りに来ない」「乗れても混雑で疲れる」といった声が相次いでいる。年々利用の増加が続き、ついに年間1000万人を突破したという、京都の「インバウンド観光客」(訪日客)増加によって、もともとの混雑に拍車がかかっているようだ。
京都ではさらに、秋の紅葉シーズンには清水寺・三十三間堂などに観光客が殺到する。「インバウンド激増+紅葉」でラッシュがピークに達しようとする今、市内の路線に乗車したうえで、京都市営バスの担当者に「混雑の原因」や「空いたバスで紅葉を見に行くウラ技」を伺った。
京都市営バスの路線のなかでも、2時間かけて市内を循環する「206号系統」は朝から晩まで激しく混み合う。この路線は、とにかく沿線に「目的地になる場所が連なっている」のだ。
起点の「北大路バスターミナル」から東大路通り・京都駅・西大路通りを経由して、一周2時間程度で京都市内を巡る。ループの東側には四季折々の花が咲き乱れる「平安神宮」、縁結びと厄払いの「知恩院」、紅葉の名所「清水寺」、舞妓さんの街「祇園」、1000体以上の仏像が並ぶ「三十三間堂」などなど。日本人ならいちどは耳にしたことがあるような寺院・観光名所が、2kmほどの距離に点在している。
寺院はそれぞれ地形を活かした庭園を持ち、数百年かけて見事なもみじ林を育てている。こうして山裾一帯は秋ごとに朱色に染まり、見物にくる人々が絶えず……勾配も多い山裾の「東大路通り」を走る206号系統は、毎年秋ごとに“紅葉狩りラッシュ”を引き起こす。
もうひとつ、206号系統の混雑の要因は「地元の人たちの利用の多さ」。沿線には京都大学・京都府立大学や華頂女子高校・洛北高校などへの通学、京都大学病院への通院、洛北阪急スクエア、イオンモール北大路などへの買い物などの利用が多い。なお、ループの西側にも「佛教大学」「龍谷大学文学部」や日常使いの量販店が連なっており、こちらの利用者の多さも相当なものだ。
しかも京都は全体的に土地が狭く、道路事情も良くないとあって「市民の77%は自家用車ナシで移動」(「京都市地域公共交通計画協議会」より)となるほどに、生活移動がバス頼みな方も多い。公営バス・市営バスはこういった人々の需要に応える役割を持つものの、あまりにも観光客が多すぎて、地元の人が乗れないことや、極度のラッシュに巻き込まれて苦痛を覚える方も多い。こうしてみると、京都市民が、市営バスや206号系統に不満を持つのも当然のことだろう。
さて、観光名所が連なる206号系統に乗車しつつ、この地で起こっている問題を見分してみよう。
バスは北大路バスターミナルを出た時点で空いているものの、「東山二条・岡崎公園口」バス停あたりから、徐々に観光客の姿が目立ち始める。何度か乗車した限りでは、この辺りですでに座席が埋まり、通路に立ち客がいる状態だ。
地下鉄東山駅の近辺を抜けると、「清水道」バス停で観光客が一気に乗車してくる。特に夕方4時・5時ごろには、清水寺を観終わって京都駅に戻る人々が20人、30人……市バスの誘導員によると、日によってはずっと行列が100人を超えていることもあるという。
なおこの周辺は歩道の幅が80cm~1m強(実測)しかなく、行く手をふさがれた歩行者・自転車が車道に出てしまうケースもあり、バスやクルマにとっても危険な状態。京都市営バスは警備員・案内係を配置しているが、このレベルの長蛇の行列を1人、2人でさばくのは無理があるようだ。
ほか、こういった多量乗車は、八坂神社のある「祇園」、京都国立博物館がある「馬町」バス停などでも見られ、夕方だと「清水道」バス停から南側(京都駅方面)は、数便待たないと乗車できない。
かつ、待たされた乗客のマナーもあまりよくなく、開いたバスのドアに乗車待ちの人が無理に乗り込んでドアが閉められなくなり、運転手が「ドア閉められません、降りて次のバスをお待ちください!」とマイクで警告しても降りず……何度もドアが開閉する音だけが車内に響き、バスはいっこうに発進しない、という事態もしばしば。バスの定時運行ができる訳もなく、運転手のストレスも相当に溜まるだろう。
京都市交通局の担当者に伺ったところ、紅葉シーズンには1日の利用者が34万人から37万人程度まで、1割ほど増加するという。なかでも206号系統は京都駅に直接向かうため、観光客が殺到しやすく、混雑ぶりが悩みの種となっている。バスの運行本数・車内の混雑・待ち場所などが全てパンク状態の206号系統、地元利用者が望む「気軽に乗車できるバス」への改善への道は、まだまだ遠い。
この事態に、交通局も手をこまねいている場合ではない。観光客と地元利用客を分散すべく、京都駅から五条坂・清水道(清水寺)、銀閣寺方面に直通する「EX100」など2系統の「観光特急バス」の運行を、2024年6月から開始した。
停車場所を極端に絞って走行していることもあり、所要時間は通常の3分の2程度。遅れが多い206号系統などと比べて、最大12分も所要時間を短縮できるという。
運賃は通常運賃の倍以上(500円)かかるが、「地下鉄・バス1日券」や「京都修学旅行 1day チケット」(追加料金不要)で乗車できるため、地元の人は230円の市営バス、観光客は500円の観光特急バス、といった棲み分けが可能となるのだ。
京都市営バスによると、昨年6月の運行開始当初は1日2200人程度の利用であったのが、紅葉シーズンの11月には3000~4000人近くの利用があったといい、206号系統などの混雑の緩和に対する効果はあるという。
ただし、京都駅からの行きが好調なのに対して、帰りはその4分の1程度にとどまるなど、時間帯によって利用状況がミスマッチなのが課題だという。また、京都駅~清水寺方面が午前中に混み合うのは変わらないものの、帰りは夕方4時ごろが混み合ったり、ライトアップの関係で日没後に利用のピークが来たりと、傾向を読み切れないのが悩みの種なのだとか。
京都市営バスはホームページ上で経営課題について公開しているが、そのなかでたったひとつの単純(シンプル)な答え……「秋の京都は混む」と断言している。(京都市交通局「見える化」より)
秋の清水寺方面へのバスは、本数1.5倍、3~4分間隔で運行しているそうだが、それでも紅葉の名所へ向かうバスが、つり革を掴むことすら難しいほど混雑していることに変わらない。
バスをさらに増便できれば良いものの、京都市交通局は全体で60人程度のバス運転手不足が発生しており、「市営バス運転士不足 非常事態宣言」を出している。人繰りの都合がつかない以上、これ以上の増便は望めないだろう。
その中で、少しでも快適な「紅葉シーズンのバス乗車」心得はないものか? 京都市交通局に伺ったところ、やはり「観光特急バスや臨時便に乗車する」「『地下鉄・バス1日乗車券』を利用する」のがおすすめだそうだ。
実際に筆者が何度か乗車しても、10月時点で観光特急バスはかなり空いており、スーツケースを持った観光客が数人いるにもかかわらず、車内はそれなりに空いていた。かつ「清水道」バス停は通常便・観光特急バスで100mほど離れているものの、観光特急バスのバス待ち行列は通常便バス停の10分の1以下(数人程度)、かつ目の前にイートイン付きのファミリーマートがあり、買ったお茶を片手にのんびり休憩する人々の姿も多く見られた。
230円のバスで揉みくちゃになるか、1日券もしくは500円支払いで、観光特急バスに乗車するか。京都観光の移動時間のQOL(クオリティー・オブ・ライフ。移動時間の質)を上げることができるなら、お高めの料金や1日券代など、安いものだろう。
また京都市交通局では、清水寺からあえてバスに乗らずに、「地下鉄東山駅まで歩く」という、なかなかハードなウラ技を提案している。もちろん時間はかかって疲労もあるが、その分で青蓮院・知恩院・祇園・高台寺などを回ることができて、山道のトレッキングにはちょうどいいだろう。
混み合ううえに、バスも増発できない。そんな京都市営バスの現状を見て「この方面への鉄道・LRT(次世代型路面電車)を建設すればよいのに?」と思う方も多いだろう。確かに建設できれば、混雑への抜本的な対策にはなるが……。
まず東大路通は鴨川を挟んで、かつての「平安京」の1kmほど東側を南北に走っている。この場所は「東山三十六峰」と呼ばれる京都市東部の山岳地帯の裾野にあり、勾配やカーブも多い道路への地下鉄敷設は、あまり現実的ではない。だいたい、500mほど西側に京阪電鉄が走っているため、補助を出す側の国交省も必要性を認めてはくれないだろう。
ただLRT敷設計画はあり、2005年に京都市が調査した限りでは単年黒字化・建設費用の償還は「可能」との判断が出ている。しかしその後、建設の大本命とされた「今出川線」も含めてLRT建設に逆風が吹き、現状では計画自体が頓挫した状態と言ってよいだろう。
そもそも、京都の街で寺社仏閣が郊外にあるのは、仏教政治からの脱却を掲げた桓武天皇が「寺院は平安京の外へ」施策をとったことに理由がある。街から離れた場所に拠点を置かざるを得なくなった各寺院は、地形を活かした庭園の勾配に紅葉を植え、数百年単位で育ててきた。
京都の紅葉が美しいのは「1000年以上の歴史に育まれているから」と言っても過言ではない。山肌一面が紅葉の朱色に染まった景色は、ぎゅうぎゅう詰めのバスに乗車してでも、見に行く価値があるのではないか。
11月7日時点のウェザーニュースの予報によると、京都市中心部や祇園・清水寺の紅葉のピークは、11月17日頃から月末辺りとのこと。地下鉄・バス1日券を携えて、京の紅葉を見に行きたいものだ。
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(フリーライター 宮武 和多哉)