【役に立つオモシロ医学論文】
近年、都市部に人口が集中する一方、地方では人口が大きく減少しており、野生動物の生息範囲が拡大しています。日本では、クマによる人身被害が増加しており、2023年の統計では209件、このうち秋田県が70件と最多でした。クマに襲われることによって生じる人身被害は深刻で、命を落とすことも珍しくありません。
クマによる外傷や重症度などを調査した研究論文は、日本救急医学会が発行している学術誌に、24年10月7日付で掲載されています。秋田大学病院の医療記録を分析したこの研究では、23年にクマに襲われた20人が分析対象となりました。患者の性別や年齢、クマに襲われた状況、外傷の状態、治療状況などが網羅的に調査され、クマに関連した外傷の特徴を分析しています。
その結果、クマに襲われた患者は中央値で74.5歳と高齢で、65%が男性でした。発生時期は5~11月で、10月がピークでした。また、クマに襲われた場所の75.0%は、山林ではなく人間の居住地でした。
患者の9割は顔面に損傷を受けており、次いで腕(70%)、そして頭部(60%)の損傷が多く認められました。また、顔面骨折が9人、眼球破裂が3人、頭蓋骨骨折と頭蓋内出血がそれぞれ1人でした。
患者の52.6%にあたる10人は、全身麻酔を必要とする緊急手術を受けていて、集中治療室で輸血や人工呼吸器の装着など、生命維持治療を受けた患者は8人でした。入院中に死亡した患者はいませんでしたが、眼球が破裂した3人は片目を失明しました。
論文著者らは「クマに襲われることは、多くの場合で迅速な治療を必要とする重度の上半身損傷をもたらす」と結論しています。
(青島周一/勤務薬剤師/「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)