闇バイトに応募し、東京都国分寺市と埼玉県所沢市の民家に侵入して住民に暴行を加え、現金を奪うなどしたとして、強盗致傷と住居侵入の罪に問われた佐藤聖峻(きよたか)被告(26)。東京地裁立川支部(菅原暁裁判長)で行われた裁判員裁判で明らかになったのは、指示役のいうがままに被害者を拘束し、犯行に及ぶ被告の姿だった。
骨折させ865万円強奪、報酬30万円
「『中に人がいたら拘束しろ』といわれていた」
昨年9月30日未明、国分寺市の民家にもう1人の実行役と侵入する際、指示役との通話内容を、佐藤被告は被告人質問でこう振り返った。
ここでは勝手口のドアガラスに粘着テープを張り、ハンマーでたたくなどして損壊。かぎを外して侵入し、中にいた女性=当時(61)=を縛った上、背中をたたくなどの暴行を加えて骨折などの重傷を負わせ、現金約865万円などを奪った。
報酬として30万円を受け取った後、翌10月1日未明には、ほかの実行役3人とともに所沢市の住宅に侵入。80代の夫婦を縛り上げ、包丁で切りつけるなどしてけがを負わせた上で、現金や預金通帳などを奪って逃走しようとして逮捕された。
収入は月20万円、元妻に渡す15万円
事件に至る背景として被告が公判で明かしたのは、生活の困窮だった。
被告人質問によると、令和5年ごろに妻の浮気が発覚し、離婚。食費や娯楽費、妻と子供が住む部屋の家賃など計約15万円を元妻側に渡すようになったという。被告は会社員として月約20万円の収入を得ていたが、「妻の浮気で自暴自棄になり、自分も遊ぶようになった」。借金も重ねるようになり、生活は逼迫(ひっぱく)する。
友人から借りた120万円も詐欺で失い、自殺も試みたが死ねなかった。副業を探し、X(旧ツイッター)でたどり着いたのが闇バイトだった。応募すると、秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」を使い、仕事内容を伝えられた。
仕事は「たたき(強盗)」「運び(荷物の運搬)」「空き巣」を提示され、運びをするつもりだったが、空き巣を提示された。「やりたくない」と思ったが、警察には相談しなかったという。
指示役と通話しながら侵入
犯行に際しては、指示役からシグナルを通じて克明に指示を受けた。
国分寺では通話しながら侵入。一緒に行った別の実行役の供述調書では、アプリをビデオ通話に変更し、指示役が自ら現金のありかを質問していたという。
また、所沢では事件前に指示を受けて包丁2本、ハンマー1個などを購入。実行役は4人いたが、複数の指示役と同時に通話をつないで犯行に及び、現金の置き場所などを尋ねながら、「たたけ」との指示通り、リモコンを手に取り、被害者夫婦の肩などをたたいた。
検察側は論告で、被告は「何度も引き返すことができたのに、警察に相談したり被害者を顧みたりすることなく連日犯行を繰り返した」と批判し、懲役15年を求刑した。
6日の判決で菅原裁判長は、「犯行は悪質だが指示役との関係では従属的立場にあった」などとして懲役10年を言い渡した。その後、被告に対し「同じようなことは絶対しないよう、ご家族を悲しませないよう、被害者を生まないよう、気を付けて生活してください」と説諭。被告は証言台の前で小さくうなずくのみだった。(弓場珠希)